Sunday, September 6, 2020

イノリ島③「オオカミの歌」★★★


 

――やっぱりしまかぜ気持きもいい――

 オオカミのロブは、(ふね)からバイクを()(おお)(いき)()った。しばらく(うみ)()ていたが、やがてヘルメットをかぶり、エンジンをかけると、(きた)()(はし)()した。

 

「ただいま」

 玄関(げんかん)のドアを()けると、すぐに母親(ははおや)リリー()てきた。

「おかえりなさい!」

とロブに()きついてきた。

「やめろよ。はずかしいなあ」

「まあ! 10(ねん)(かえ)(なに)よ!」

 (はは)(すこ)()(なに)()わっていない。

(はは)(ちち)のロジャーが()くなってから、ひとりでロブを(そだ)ててくれた。そして、ロブがこの(しま)()ていってからは、ずっと()らしている。

(はら)()いてんだど、なんか()べものない?」

「もちろん、あるわよ。いっぱい(つく)()ってたんだから。ちょっと()(いま)(あたた)めるから」

 部屋(へや)(なか)(むかし)のままだ。テーブルソファー化粧(けしょう)(だい)て、(たな)(うえ)(ちち)写真(しゃしん)となりには(ふる)いギターが()てい

 ロブにギターを(おし)えてくれたのは(ちち)ロジャ。ロブが簡単(かんたん)(きょく)をひけるようになると、誕生(たんじょう)()(あたら)しいギターを()ってくれた。その()から毎日(まいにち)ギターを()いている。(ちち)()くなってからはバイクに()(ちゅう)になった時期(じき)もあいつもギターはロブのとなりにあった。やがて()(ぶん)(きょく)(つく)るようになった。まわりのみんないい(きょく)だとほめてくれた。そっていい(こえ)だと()ってた。ロブは「()(しゅ)()めた。

 (そつ)(ぎょう)(しき)(よく)(じつ)、ロブは(しま)()。しかし、現実(げんじつ)はきびしかった。ロブのように()(しゅ)()()(かい)にやってくるものは、(ほし)(かず)ほどいる。(つぎ)から(つぎ)へとやってきて、(つぎ)から(つぎ)へと()えていく。それでも、ロブはがんばった。アルバイトをしながら、(なん)()もオーディションを()(きょく)(つく)(つづ)けた。(いち)(ねん)(いち)(ねん)()(かん)()ぎていった。そして、ようやくCD()し、ライブハウスで(うた)えるようになった。、まだ()(しゅ)()べていくことはできったアルバイト(つづ)(せま)()()()。ついに、十年(じゅうねん)がたち、もう生活(せいかつ)(つか)しまった。……(しま)(かえ)りたい。

 

 (しょく)()(あと)(はは)(さら)(かた)()けながら、ロブに(はな)しかけてきた。

「ジョニーくんには連絡(れんらく)したの?」

「いや、してないよ」

「あなたが(かえ)()()いたがわよ」

「ああ、あいつ、(げん)()にして?」

キツネのジョニーとは()(しん)(ゆう)だ。

「ええ。もう結婚(けっこん)して、()どももいるのよ」

「ふうん」

明日(あした)連絡(れんらく)してあげなさい。ところで、あなた、()(しゅ)のほうはどうなの?」

「ああ。……もうやめようと(おも)ってる」

「そう。いいんじゃない。もう十分(じゅうぶん)がんばったでしょ」

 十分(じゅうぶん)かどうかはわからないが、母親(ははおや)にそう()われると(すこ)()()(かる)くなった。

ロブは(たな)(うえ)()(ちち)(しゃ)(しん)(なが)

 

 翌日(よくじつ)(ひま)だったので、バイクで(しま)一周(いっしゅう)してみることにした。

――ああ、(むかし)のままだ。(もり)(かわ)()どものころよく(あそ)んだ……。(あたら)しい(みせ)できている。ケーキ()あの(おか)ゴリじいさんのうちだ(げん)()かな。よし、()ってみよう――

 (おか)(うえ)(しろ)(りっ)()(たて)(もの)()(おどろ)いた。入口(いりぐち)「イノリ(じま)図書館(としょかん)」と()かれた立派(りっぱ)看板(かんばん)()てい(なか)(はい)っていくと、なつかしいにおいがした。紅茶(こうちゃ)のにおいだ。そして、貸出(かしだし)カウンターの(なか)(おお)(からだ)ゴリじいさんがいた。

「ゴリじいさん!」

「おお、ロブくんじゃないか。ひさしぶりだねえ」

「おれのこと、(おぼ)えててくれたんですか?」

「もちろん。(ちい)さいころ、よくジョニーくんと(あそ)()たじゃないか。それに、きみはこの(しま)のヒーローだからね」

「ヒーロー? おれが?」

「そう。(しま)のみんなはきみのことをずっと応援(おうえん)してるんだよ。()(しゅ)になるためにがんばってるきみは、この(しま)(ゆめ)(げん)()(あた)えてくれんだ

「う、うそだ!」

「うそじゃないさ。きみが()(きょく)(ぜん)()()るよ。息子(むすこ)きみのCD(おく)ってもらっら、この()(しょ)(かん)にもちゃんとCD()てある」

「えっ!」

「きみのお(かあ)さんもここへ()ると、いつもそうきみの(はなし)をしているよ。きっとお(とう)(そら)(うえ)(おう)(えん)しているはずだよ」

(とう)さんも……」

 

 その()(よる)、ジョニーから(でん)()があった。

「ゴリじいさんに()いたぞ。こっちに(かえ)ってきてたんだって。(げん)()か?」

「ああ、ひさしぶりだな」

10(ねん)ぶりだ。ところで、明日(あした)、ひまか? いいところに()こうぜ」

「いいところ?」

 いくらロブが()いても、ジョニーはどこに()(おし)えてくれなかった。

 

 (つぎ)()(あさ)、ジョニーは()(ぞく)といっしょに(くるま)でやってきた。

彼女(かのじょ)ナナ。そして、こっちが(むすめ)のマニー」

 ジョニーは(くるま)()()(くるま)よりバイクのほうがいいと()(ことわ)った。ロブはジョニーの(くるま)(うし)ろをバイクで(はし)った

――いったいどこへ()()こうとしているんだ? ピクニックか?――

(しま)中央(ちゅうおう)()かって20(ぷん)ぐらい(すす)むと、ある建物(たてもの)(まえ)(くるま)()まった。運転席(うんてんせき)(まど)からジョニーが(かお)()して「ここだ」と()った。ここはロブとジョニーが(さい)(しょ)()()()(しょ)。イノリ(じま)幼稚園(ようちえん)だ。

 ロブがバイクを()(むすめ)マニロブ()

「きょうは、うたのはっぴょうかいなんだよ」

 ジョニーに()ロブステージの一番前(いちばんまえ)いすに(すわ)った。ブタ(ふう)()(となり)(すわ)ってい

ヤギの園長(えんちょう)先生(せんせい)開会(かいかい)のあいさつをした。()(がっ)()()(つぎ)(つぎ)にやってくる。(さい)()()てきたマニマイクの(まえ)()った。

「きょうは、みなさん。はっぴょうかいに、きてくれて、ありがとうございます。ロブさんもきてくれて、とってもうれしいです。いまから、いっしょうけんめい、うたと、えんそうをします。さいしょのきょくは、『しまのかぜ』です」

 (おお)(はく)(しゅ)()ったロブは(しん)()()でい

 イヌの(せん)(せい)(だい)()()()た。(おお)()()ネコの先生(せんせい)ピアノ()(はじ)(えん)(そう)(はじ)った

 『(しま)(かぜ)』は、ロブが(しま)()(つく)(きょく)(はじ)めてCDになった(きょく)

となりを()ると、ジョニーがにやっと(わら)った。

毎年(まいとし)この(きょく)発表会(はっぴょうかい)(うた)うんだ。ほら、()てみろよ。あそこ」

 ()()(うし)(せき)(はは)リリー(すわ)っていた。そして、そのとなりにはゴリじいさん

「あのふたりだけじゃないぜ。毎年(まいとし)おおぜいの(ひと)この(うた)()()るんだ

 ()(やさ)(うた)(ごえ)()こえてきた。(おお)(いき)()(ちい)(くち)(いっ)(しょう)(けん)(めい)(うた)っていロブの()(なみだ)た。

――こんないい(きょく)(つく)れるのに、あきらめるなんてもったいないぞ――

 (そら)()(ちち)(こえ)()こえ

 (つづく)

 

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