Saturday, October 26, 2019

目黒のさんま★★★

 もう(あき)ですね。だいぶ(すず)しくなりました。(あき)はおいしい()(もの)がたくさんあります。(くり)、きのこ、なす……。でも、やっぱり(あき)になると()べたくなるのが、さんまです。

 

 さんまは(うみ)(さかな)で、(あき)から(ふゆ)にかけて(たい)(へい)(よう)でよく()れます。()(かた)簡単(かんたん)(しお)をかけて()くだけです。そして、(やす)くてうまい。ああ、おなかがすいてきた

 

 それから、(あき)になると、(そと)(からだ)(うご)かしたくなります。ジョギング、テニス、サッカー、ゴルフ。スポーツをするのに、ちょうどいい()(せつ)です。

 

 また、(あき)はどこかへ()かけるのもいいですね。(くるま)で、バイクで、()(てん)(しゃ)で。紅葉(もみじ)とてもきれいです。ですが、(むかし)はバイクや()(てん)(しゃ)なかったので、(うま)()って(とお)くまで()かけました。それを「(とお)()り」と()いま

 

****************************************

 

ある()殿(との)(さま)()(らい)(とお)()りに()かけました。()(せつ)(あき)で、(てん)()()く、紅葉(もみじ)とてもきれいでした殿(との)(さま)たちは(なが)()(かん)(うま)()って(つか)れたので、(すこ)(やす)むことにしました。

 

 殿(との)(さま)(みず)一口(ひとくち)()んで、

「このへんは(やま)(おお)くて(くう)()がうまい。やっぱり(あき)(とお)()りに(かぎ)る!」

()(らい)()いました。

「ええ、()()ちがいいですね」

「ここは(なん)うところだ?」

「ここは()(ぐろ)でございます」

「そうか。()(ぐろ)か。よいところだ。だが、ずいぶん(とお)くまで()しまったな

「そうですね。おなかもすいてきましたし、そろそろお(しろ)(かえ)りましょう」

()て! (なに)かいいにおいがするぞ

「におい?」

()ると、(いっ)(けん)(いえ)(まど)から(けむり)()ていました

「あっ、あそこの(いえ)(なに)()いているようですね。ああにおいさんま

「さんま? (なん)だ、それは?」

(あき)()れる(さかな)です」

「そうか。では、(いち)()()べてみるか

殿(との)いけません! さんまは()(ぶん)(ひく)(もの)()べる(さかな)ございます殿(との)のよう()(ぶん)(たか)(かた)()べるものではありません」

「そうか……。しかし、いいにおいだ。では、(すこ)()るだけでも」

「あっ、殿(との)!」

 殿(との)(さま)(うま)()りてその(いえ)(はい)っていきました

 

「すまない。失礼(しつれい)する」

 (いえ)(なか)ではおじいさんが七輪(しちりん)でさんまを()いていました。

「だれだ? あっ! お殿(との)(さま)

「これが、さんまか?」

「ええ。どうしてこんなところに!?」

 

 さんまは、いい(いろ)()けていて、(あぶら)()()ちると、じゅっとおいしそうな(おと)がします。

 殿(との)(さま)ごくんと(つば)()みました。

「すまないが、これをいただけないか?」

「えっ! お殿(との)(さま)がさんまを!? すみませんこれはわたくしの(ちゅう)(しょく)して……

(なに)!? では、(かね)をやろういくらほしい?」

「いりません。うちは(しょく)(どう)ではありません(かね)いただいても、このさんまは(ゆず)りません」

「ええい! うるさい!」

 殿(との)(さま)はおじいさんのはしを(うば)うと、さんまをつかんで、(くち)(なか)()てしまいました。

「なっ! あぁー!」



「うまい!! こんなうまいものを()べたのは(はじ)めてだ!」

こうして、殿(との)(さま)ひとりでさんまを(ぜん)()()べてしまいました。

 

「ああ、うまかった。()(ぐろ)本当(ほんとう)によいところだ」

 殿(との)(さま)たちはおじいさんにたくさんお(かね)()いて(いえ)()ました。

 

 お(しろ)(はい)るとき、()(らい)殿(との)(さま)()いました。

殿(との)今日(きょう)()(ぐろ)でさんまを()べたことはお(わす)れください。このことは(しろ)(ぜっ)(たい)()ってはいけませんぞ!」

「わかった。わかった。だれにも()わん」

 

 ところが、殿(との)(さま)()(ぐろ)()べたさんまの(あじ)(わす)れられません。お(しろ)(しょく)()には、もちろんさんまは()てきません。殿(との)(さま)(まい)(にち)さんまが()べたいさんまが()べたい」と(おも)っていました。

 

 ある()殿(との)(さま)(しん)(せき)(いえ)()かけることになりました。殿(との)(さま)(よろこ)びました。(しん)(せき)(いえ)では(ちゅう)(しょく)(なん)でも()きなものが()べられるのです。

 

 殿(との)(さま)(しん)(せき)(いえ)()くと、すぐに(いえ)(しゅ)(じん)()んで、

(ちゅう)(しょく)さんまが()べたい!」

()いました。

「さんま!? あの(さかな)のさんまですか?

「そうだ。(わる)いか!?」

「い、いえ。では、ご(よう)()いたします」

 

 (しゅ)(じん)すぐに(りょう)()(ばん)()んで、日本橋(にほんばし)へさんまを()いに()かせました(このころ、日本橋(にほんばし)には(おお)きな(うお)(いち)()がありました)。(りょう)()(ばん)はその(うお)(いち)()(いち)(ばん)(おお)きくて立派(りっぱ)さんまを()って()ました。

(りょう)()(ばん)は、このさんまでどんな(りょう)()(つく)ればいいか主人(しゅじん)(そう)(だん)しました。

「このさんまは、おいしそうだ」

今朝(けさ)(ちょう)()()たばかりのさんまです。(あぶら)がのっていて、おいしいと(おも)います。でも、(あぶら)(おお)(からだ)よくないですかね

「う~ん。では、()かないで()せ。()せば、(あぶら)()るし、(くろ)くならない

「はい! それから、さんまは(ちい)(ほね)がたくさんあります。もし(ほね)がのど()さったら(たい)(へん)です

「では、(ほね)(ぜん)()()

「はい! ところで、殿(との)(さま)はさんまを()べたことがあるんですか?」

「はっははは。お(しろ)殿様(とのさま)にさんまを()べさせるわけがない。きっとだれかに()いたんだ

「そうですよね」

 

(りょう)()(ばん)は、さんまの(あたま)()って、おなかを(ひら)くと内臓(ないぞう)全部(ぜんぶ)()って、(みず)できれいに(あら)いました。それを()から、一本(いっぽん)一本(いっぽん)(ほね)()って(かわ)()って、つぶして、(まる)めて、ゆでて、お(わん)()れました

 

(ちゅう)(しょく)()(かん)(しゅ)(じん)のお(わん)殿(との)(さま)(まえ)()しました。

「さんまでございます。どうぞお()()がりください」

「こ、これがさんまか?」

「はい。さんまでございます」

殿(との)(さま)はしで(すこ)それを()って、(はな)(ちか)づけました。

「んん~、たしかに(すこ)さんまのにおいする……」

 

殿(との)(さま)ゆっくりとそれを(くち)(はこ)ました。ですが、(あぶら)()ちた()したさんまがおいしいわけがありません。

「まずい! これはどこのさんまだ!?」

銚子(ちょうし)のさんまでございます」

銚子(ちょうし)? だから、まずいのだいいかよく(おぼ)えておけ。さんまは()(ぐろ)(かぎ)

 

<おわり>

2 comments:

  1. トンガリブックスさん、ありがとうございます。インドの日本語の先生の多読の会で読んでいます!

    ReplyDelete
    Replies
    1. 多読が好きクラブのみなさんですね。いつもありがとうございます。前回ゲストとして参加させていただきましたが、温かくて、とてもいい会でした。

      Delete

トウキョウタワー★★★

Created By ondoku3.com 「 東 ( とう ) 京 ( きょう ) タワー」   私 ( わたし ) の 家 ( いえ ) の 居 ( い ) 間 ( ま ) の 壁 ( かべ ) には、 大 ( おお ) きな 東 ( とう ) 京 ( きょう )...