↓こちらから『黒コウモリと白コウモリ』のたて書きver.をダウンロードできるようになりました。(2023/6/12)
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ある森にコウモリの村があった。
その村の小さな洞窟にひとりのコウモリが住んでいた。
名前はサカサ。
家族はいない。友だちも……
ある夜、サカサは空を見上げた。丸い月がきれいだった。
サカサはどこか遠いところまで飛んで行きたくなった。
雲のない空をサカサは飛んだ。
初めて山を越えた。
初めて山を越えた。
大きな湖があった。
そこで水を飲んで少し休んだ。
夜が明けるまで飛び続けた。
少しも疲れていなかった。
どこまでも飛んでいけると思った。
朝になると、大きな木を見つけて、枝にぶらさがって眠った。
そして、夜が来ると、また飛んだ。
ある朝、サカサが寝ていると、ガサッという音がした。
―― 鳥 ?
サカサは目を開けた。
白い羽のコウモリが枝に座っていた。
サカサはそのコウモリを見て、とてもきれいだと思った。サカサは、その白い羽のコウモリに声をかけた。
「ねえ、きみはコウモリ?」
「え、ええ。……あなたもコウモリ?」
「もちろん。……ぼく、白い羽のコウモリなんてはじめて見たよ」
「わたしも黒い羽のコウモリを見たのははじめて」
「えっ!? コウモリの羽はみんな黒いだろ」
「そんなことないわ。わたしの家族や友だちはみんな白よ」
「そうなの!? ぼくが住んでいた森のコウモリはみんな黒だよ」
「ふうん、そう」
「でも、コウモリが枝に座るなんてちょっと変だよ」
「変? あなたこそ枝にぶらさがるなんて変よ」
「えっ!?」
ふたりの話は、なかなかかみ合わない。
「ねえ、きみの名前は?」
「ミンミ。あなたは?」
「サカサ」
「サカサ? ふふふ。変な名前」
「そっちこそ!」
ふたりの話はやっぱりかみ合わない。
けれど、ふたりは仲良くなった。
サカサはミンミの村で暮らし始めた。
ミンミの家族や友だちは本当に羽が白かった。
白コウモリは小さな羽を動かして、上がったり、下がったりして飛ぶ。
黒コウモリは大きな羽で風に乗って飛ぶ。
白コウモリは朝に起きて夜に寝る。
みんな頭を上にして座る。(だれもぶらさがらない)
サカサはミンミに言った。
「白コウモリは黒コウモリと全然違うね」
「でも、同じところもあるでしょ?」
「どこが?」
「食べるし、寝るし、空を飛ぶ」
「ははは、そうだね」
「それに……」
「それに?」
「白コウモリもみんな同じじゃないわ。ひとりひとり顔も考え方も違う。黒コウモリもそうでしょ?」
「うん」
「だから、わたしはわたし。サカサはサカサ。……ふふふ、やっぱり変な名前」
サカサはミンミとずっといっしょにいたいと思った。
サカサは、白コウモリと同じように朝に起きて夜に寝た。
本当は枝にぶらさがりたかったけど、頭を上にして座った。
本当は枝にぶらさがりたかったけど、頭を上にして座った。
でも、ミンミの家族や友だちは、サカサのことをなかなか好きになってくれなかった。
ある日、ミンミはサカサに言った。
「ねえ。わたし、サカサが生まれた森を見てみたい」
サカサはミンミを連れて森に帰った。
そして、ふたりは小さな洞窟で静かに暮らし始めた。
森に住んでいた黒コウモリたちは、白い羽のミンミを見て、驚いた。
「おい。変なコウモリがいるぞ」
とだれかが言った。
だれもミンミに話しかけてこなかった。
ある日、山火事が起きた。
森が焼け、洞窟はどこも煙でいっぱいになった。コウモリたちは必死に逃げた。
やがて雨が降り、火は消えた。

サカサもミンミも無事だった。
けれど、森にはもう住めなくなった。
黒コウモリたちは、みんな集まり、これからどうしようかと話し合った。
でも、みんなどうすればいいかわからなかった。
でも、みんなどうすればいいかわからなかった。
だれも森の外に出たことがなかったし、だれも他に暮らせる場所を知らなかった。
ひとりの黒コウモリが言った。
「この森が火事になったのは、その白コウモリのせいだ!」
「何!」
サカサは怒って、その黒コウモリに飛びかかろうとした。
「やめて!」
ミンミはサカサを止めた。
そして、みんなに言った。
「わたし、いい場所を知ってる。ちょっと遠いけど。そこには、みんながぶらさがれるぐらいのとっても大きな木があるの。そこでしばらく暮らして、その間に新しい洞窟を見つけるといいわ。……でも、そこには白い羽のコウモリがたくさんいるの。わたしと同じ。それでもいいなら、わたしについてきて」
ミンミは飛んだ。
「待って!」
サカサが飛ぶと、少し遅れてみんなもついてきた。
流れる星
乾いた風
冷たい雨
鳥の歌
大きな湖
光る虫
苦い果物
花の匂い
それは長い長い旅だった。
そして、ある晩、ミンミの村にたどり着いた。
村の白コウモリたちは、たくさんの黒コウモリを見て驚いた。
だれかが言った。
「黒い羽のコウモリはサカサだけじゃなかったんだ……」
白コウモリたちはミンミから話を聞くと、食事を出したり、村を案内したりしてあげた。
黒コウモリたちは涙を流して感謝した。
「ありがとうございます。みなさんの親切は絶対に忘れません」
あの黒コウモリが言った。
「ミンミさん、あの時はひどいことを言って本当にすみませんでした」
黒コウモリたちは枝にぶらさがってゆっくり休んだ。
それを見て、白コウモリたちはまた驚いた。
やがて黒コウモリたちは近くの森に洞窟を見つけ、引っ越して行った。
サカサとミンミは村に残った。
前よりみんな親切にしてくれた。
ある日、村に大きな台風が来た。
強い風が森の木の葉を吹き飛ばした。
村の白コウモリたちはみんな集まり、どうしようかと話し合った。
その時、サカサが言った。
「みんな! 黒コウモリたちのところに行こう! 洞窟なら安全だ!」
「えっ! でも……」
「大丈夫! 彼らはきっと助けてくれる! それに、洞窟は狭いけど、彼らはいつも天井にぶらさがっているから、床は空いているんだ」
「そうか!」
白コウモリたちは、サカサについて黒コウモリの洞窟まで飛んで行った。
洞窟に着いたとき、黒コウモリたちはみんな天井にぶらさがって眠っていた。
けれど、雨で濡れた白コウモリたちに気が付くと、みんな飛び起きた。
黒コウモリたちは喜んで、「よく来てくれた!」とだれもが言った。
白コウモリたちは涙を流して喜んだ。
そして、いっしょに食事をして、歌ったり、踊ったり、おしゃべりをして一晩中楽しく過ごした。
そろそろ夜が明けるころ、みんな疲れて眠りについた。
サカサとミンミは外へ出た。
台風はもうどこかへ行っていた。
「見て。きれい」とミンミが言った。
東の空に朝日が昇りはじめていた。
「きれいだね。でも、ほら、あっちも見て」
暗い西の空にはまだ月が残っていた。
「ふふふ。あっちもきれい」
ミンミが笑うと、サカサも笑った。
ふたりは飛んだ。
夜と朝の、黒と白の間の空を。
夜と朝の、黒と白の間の空を。
(完)
楽しかった!ありがとうございます。
ReplyDeleteコメントをありがとうございました。気づくのがおそくて、すみませんでした。「楽しかった」と言ってもらえるのが、いちばんうれしいです!
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