この島は「イノリ島」。いつ、だれが、この名前をつけたかわからない。ずっと昔からあるこの島には、いろいろな動物たちが暮らしている。
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海がよく見える丘の上に、古い大きな木の家があった。その家にひとりのおじいさんゴリラが住んでいた。島のみんなは彼のことを「ゴリじいさん」と呼んでいた。
ゴリじいさんは大工だった。木を削ったり、釘を打ったり、柱を運んだり、朝から晩までよく働いた。立派な家をいくつも建てた。でも、もう年を取り、仕事はやめた。毎日、ひとりでのんびり暮らしている。
昔は家族と暮らしていたが、奥さんはだいぶ前に亡くなった。一人息子は大きくなると、島を出た。街で働き、結婚した。たまに孫を連れて帰ってくるが、今も街に住んでいる。
ゴリじいさんは子どものころから本を読むのが好きだった。今では朝から晩までずっと本を読んでいる。毎月、息子が新しい本をどっさり送ってくれるのだ。本棚の前で読み終わった本をどこに入れようか考えているときが、ゴリじいさんにとって一番楽しい時間だった。
ときどき散歩や買い物に出かけると、近所の人たちが声をかけてくる。
「ゴリじいさん! この間借りた本、とってもおもしろかったよ。また借りに行ってもいい?」
そんなとき、ゴリじいさんは、いつもにっこり笑って、
「もちろん。いつでも借りに来なさい」
とこたえる。
島には本屋がないので、みんなゴリじいさんの家に本を借りに来るのだ。本を借りに来たお客さんと紅茶を飲みながらおしゃべりをする。ゴリじいさんは、こんな生活が気に入っていた。
ただ、一つ困ったことがあった。本がいっぱいで、もう本棚に入り切らなくなってしまったのだ。
今までは、本がいっぱいになると、ゴリじいさんは自分で新しい本棚を作った。それで、今ではうちの中に33個も本棚がある。でも、34個目の本棚を作ろうとは思わなかった。もう若くないし、新しい本棚を作っても置く場所がないからだ。
古い本を捨てようかと思った。けど、それもできなかった。どの本にも思い出があって、ずっと大切にしてきたからだ。それに、島のだれかがその本を借りていくかもしれない。
しかたがないので、ゴリじいさんは息子に手紙を書いた。
――もう本は送らなくてもいいよ――
だが、その手紙は、結局送ることができなかった。
何かいい方法がないかと何日も何日も悩んで考えた。
「そうだ。島のみんなにあげよう!」
ゴリじいさんは、さっそく島のみんなに手紙を書いた。
――わたしの家の本をみなさんにあげることにしました。どうぞ好きなだけ持って行ってください――
数日後、手紙を読んだ島の動物たちが、ゴリじいさんの家にやってきた。
トラの親分が、
「おい! ゴリじい。ひどいじゃないか! おれたちはもうここに来ちゃいけないっていうのかい!? おれはここで紅茶を飲みながら、ゴリじいとあれこれ話すのが好きなんだ! それなのに、もうそれができなくなるっていうのかい!?」
と言うと、みんなも「そうだ、そうだ!」と口をそろえた。
ゴリじいさんは困った顔で、
「いやいや、そうじゃないんだ。もう本棚に本が入らなくて……」
と説明した。すると、みんなも困った顔になった。
雨がぽつぽつ降ってきた。ゴリじいさんは席を立つと、お湯を沸かして、紅茶を入れた。
ヒツジのメイばあさんは一口飲んで、
「ああ、おいしい。でも、……もうこの紅茶も飲めなくなるのね」
と言った。
ゴリじいさんはみんなに向かって頭を下げた。
「すまない。……けど、もう……」
そのとき、カンガルーの女の子が言った。
「あきらめちゃだめ! 『最後まであきらめてはいけない』んでしょ?」
「ルウ……。よく覚えていたね。それは、ルウがここから借りていった本に書いてある言葉だ」
ルウは、にこっと笑って
「そう。ゴリじいさんがすすめてくれた本よ」
と言った。
「ぼくも思い出したよ! 『答えはすべて本の中にある』って、何かの本に書いてあった。こんなにたくさん本があるんだ。きっとこの家のどこかに、何かいい方法が書かれた本があるはずだよ!」
とメガネザルのコイルが言った。
オオカミのリリーおばさんが立ち上がった。
「みんなで探しましょう!」
トラの親分も立ち上がって大声で
「よし! 探すぞー!」
と言うと、みんな「おぉー!」と続いた。
すぐにみんなで家中の本を調べ始めた。そして、夕方、暗くなるころ、ルウがその本を見つけた。
次の日は、気持ちのいい青空。みんなゴリじいさんの家に集まって、本を片付け、本棚を外に出した。それから、家の中を掃除したり、本棚を磨いたりした。
その次の日は、森へ行き、木を切り倒して、家の庭まで運んできた。
その次の日は、運んできた木を、切って、削って、組み立てた。
その次の日は、壁や屋根にペンキを塗った。
その次の日は、本棚と本を運び入れ、入口に看板を付けた。
最後の日は、新しい本棚を作ったり、本を並べたり、受付カウンターや貸出カード、お祝いパーティーの準備をしたりと大忙しの一日だった。
その日の朝、ゴリじいさんは、いつもより少し早起きして、食事をすませ、しばらくぶりにスーツを着ると、玄関を出た。そして、うちのとなりに建った新しい建物に入っていった。
34個目の本棚の前。ゴリじいさんの大きな手には、ゆうべ読み返した『島の図書館』という本があった。
(つづく)
かわいい!!!
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