Thursday, August 27, 2020

イノリ島①「ゴリラのおじいさん」★★★

 この島しまは「イノリ島じま」。いつ、だれが、この名な前まえをつけたかわからない。ずっと昔むかしからあるこの島しまには、いろいろな動どう物ぶつたちが暮くらしている。

 

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 海(うみ)がよく見(み)える丘(おか)の上(うえ)に、古(ふる)い大(おお)きな木(き)の家(いえ)があった。その家(いえ)にひとりのおじいさんゴリラが住(す)んでいた。島(しま)のみんなは彼(かれ)のことを「ゴリじいさん」と呼(よ)んでいた。

ゴリじいさんは大(だい)工(く)だった。木(き)を削(けず)ったり、釘(くぎ)を打(う)ったり、柱(はしら)を運(はこ)んだり、朝(あさ)から晩(ばん)までよく働(はたら)いた。立(りっ)派(ぱ)な家(いえ)をいくつも建(た)てた。でも、もう年(とし)を取(と)り、仕(し)事(ごと)はやめた。毎(まい)日(にち)、ひとりでのんびり暮(く)らしている。

昔(むかし)は家(か)族(ぞく)と暮(く)らしていたが、奥(おく)さんはだいぶ前(まえ)に亡(な)くなった。一人(ひとり)息子(むすこ)は大(おお)きくなると、島(しま)を出(で)た。街(まち)で働(はたら)き、結(けっ)婚(こん)した。たまに孫(まご)を連(つ)れて帰(かえ)ってくるが、今(いま)も街(まち)に住(す)んでいる。

 ゴリじいさんは子(こ)どものころから本(ほん)を読(よ)むのが好(す)きだった。今(いま)では朝(あさ)から晩(ばん)までずっと本(ほん)を読(よ)んでいる。毎月(まいつき)、息子(むすこ)が新(あたら)しい本(ほん)をどっさり送(おく)ってくれるのだ。本(ほん)棚(だな)の前(まえ)で読(よ)み終(お)わった本(ほん)をどこに入(い)れようか考(かんが)えているときが、ゴリじいさんにとって一(いち)番(ばん)楽(たの)しい時(じ)間(かん)だった。

 ときどき散(さん)歩(ぽ)や買(か)い物(もの)に出(で)かけると、近(きん)所(じょ)の人(ひと)たちが声(こえ)をかけてくる。

「ゴリじいさん! この間(あいだ)借(か)りた本(ほん)、とってもおもしろかったよ。また借(か)りに行(い)ってもいい?」

 そんなとき、ゴリじいさんは、いつもにっこり笑(わら)って、

「もちろん。いつでも借(か)りに来(き)なさい」

とこたえる。

 島(しま)には本(ほん)屋(や)がないので、みんなゴリじいさんの家(いえ)に本(ほん)を借(か)りに来(く)るのだ。本(ほん)を借(か)りに来(き)たお客(きゃく)さんと紅(こう)茶(ちゃ)を飲(の)みながらおしゃべりをする。ゴリじいさんは、こんな生(せい)活(かつ)が気(き)に入(い)っていた。

 ただ、一(ひと)つ困(こま)ったことがあった。本(ほん)がいっぱいで、もう本(ほん)棚(だな)に入(はい)り切(き)らなくなってしまったのだ。

今(いま)までは、本(ほん)がいっぱいになると、ゴリじいさんは自(じ)分(ぶん)で新(あたら)しい本(ほん)棚(だな)を作(つく)った。それで、今(いま)ではうちの中(なか)に33個(こ)も本棚(ほんだな)がある。でも、34個(こ)目(め)の本(ほん)棚(だな)を作(つく)ろうとは思(おも)わなかった。もう若(わか)くないし、新(あたら)しい本(ほん)棚(だな)を作(つく)っても置(お)く場(ば)所(しょ)がないからだ。

古(ふる)い本(ほん)を捨(す)てようかと思(おも)った。けど、それもできなかった。どの本(ほん)にも思(おも)い出(で)があって、ずっと大(たい)切(せつ)にしてきたからだ。それに、島(しま)のだれかがその本(ほん)を借(か)りていくかもしれない。

しかたがないので、ゴリじいさんは息子(むすこ)に手(て)紙(がみ)を書(か)いた。

――もう本(ほん)は送(おく)らなくてもいいよ――

だが、その手(て)紙(がみ)は、結(けっ)局(きょく)送(おく)ることができなかった。

 何(なに)かいい方(ほう)法(ほう)がないかと何(なん)日(にち)も何(なん)日(にち)も悩(なや)んで考(かんが)えた。

「そうだ。島(しま)のみんなにあげよう!」

 ゴリじいさんは、さっそく島(しま)のみんなに手(て)紙(がみ)を書(か)いた。

――わたしの家(いえ)の本(ほん)をみなさんにあげることにしました。どうぞ好(す)きなだけ持(も)って行(い)ってください――

 数(すう)日(じつ)後(ご)、手(て)紙(がみ)を読(よ)んだ島(しま)の動(どう)物(ぶつ)たちが、ゴリじいさんの家(いえ)にやってきた。

 トラの親(おや)分(ぶん)が、

「おい! ゴリじい。ひどいじゃないか! おれたちはもうここに来(き)ちゃいけないっていうのかい!? おれはここで紅茶(こうちゃ)を飲(の)みながら、ゴリじいとあれこれ話(はな)すのが好(す)きなんだ! それなのに、もうそれができなくなるっていうのかい!?」

と言(い)うと、みんなも「そうだ、そうだ!」と口(くち)をそろえた。

 ゴリじいさんは困(こま)った顔(かお)で、

「いやいや、そうじゃないんだ。もう本(ほん)棚(だな)に本(ほん)が入(はい)らなくて……」

と説(せつ)明(めい)した。すると、みんなも困(こま)った顔(かお)になった。

 雨(あめ)がぽつぽつ降(ふ)ってきた。ゴリじいさんは席(せき)を立(た)つと、お湯(ゆ)を沸(わ)かして、紅(こう)茶(ちゃ)を入(い)れた。

ヒツジのメイばあさんは一(ひと)口(くち)飲(の)んで、

「ああ、おいしい。でも、……もうこの紅茶(こうちゃ)も飲(の)めなくなるのね」

と言(い)った。

 ゴリじいさんはみんなに向(む)かって頭(あたま)を下(さ)げた。

「すまない。……けど、もう……」

そのとき、カンガルーの女(おんな)の子(こ)が言(い)った。

「あきらめちゃだめ! 『最(さい)後(ご)まであきらめてはいけない』んでしょ?」

「ルウ……。よく覚(おぼ)えていたね。それは、ルウがここから借(か)りていった本(ほん)に書(か)いてある言葉(ことば)だ」

ルウは、にこっと笑(わら)って

「そう。ゴリじいさんがすすめてくれた本(ほん)よ」

と言(い)った。

「ぼくも思(おも)い出(だ)したよ! 『答(こた)えはすべて本(ほん)の中(なか)にある』って、何(なに)かの本(ほん)に書(か)いてあった。こんなにたくさん本(ほん)があるんだ。きっとこの家(いえ)のどこかに、何(なに)かいい方法(ほうほう)が書(か)かれた本(ほん)があるはずだよ!」

とメガネザルのコイルが言(い)った。

オオカミのリリーおばさんが立(た)ち上(あ)がった。 

「みんなで探(さが)しましょう!」

トラの親(おや)分(ぶん)も立(た)ち上(あ)がって大(おお)声(ごえ)で

「よし! 探(さが)すぞー!」

と言(い)うと、みんな「おぉー!」と続(つづ)いた。

 すぐにみんなで家(いえ)中(じゅう)の本(ほん)を調(しら)べ始(はじ)めた。そして、夕(ゆう)方(がた)、暗(くら)くなるころ、ルウがその本(ほん)を見(み)つけた。

 

 次(つぎ)の日(ひ)は、気(き)持(も)ちのいい青(あお)空(ぞら)。みんなゴリじいさんの家(いえ)に集(あつ)まって、本(ほん)を片(かた)付(づ)け、本(ほん)棚(だな)を外(そと)に出(だ)した。それから、家(いえ)の中(なか)を掃(そう)除(じ)したり、本(ほん)棚(だな)を磨(みが)いたりした。

 その次(つぎ)の日(ひ)は、森(もり)へ行(い)き、木(き)を切(き)り倒(たお)して、家(いえ)の庭(にわ)まで運(はこ)んできた。

 その次(つぎ)の日(ひ)は、運(はこ)んできた木(き)を、切(き)って、削(けず)って、組(く)み立(た)てた。

 その次(つぎ)の日(ひ)は、壁(かべ)や屋(や)根(ね)にペンキを塗(ぬ)った。

 その次(つぎ)の日(ひ)は、本(ほん)棚(だな)と本(ほん)を運(はこ)び入(い)れ、入(いり)口(ぐち)に看(かん)板(ばん)を付(つ)けた。

 最(さい)後(ご)の日(ひ)は、新(あたら)しい本(ほん)棚(だな)を作(つく)ったり、本(ほん)を並(なら)べたり、受(うけ)付(つけ)カウンターや貸(かし)出(だし)カード、お祝(いわ)いパーティーの準(じゅん)備(び)をしたりと大(おお)忙(いそが)しの一(いち)日(にち)だった。

その日(ひ)の朝(あさ)、ゴリじいさんは、いつもより少(すこ)し早(はや)起(お)きして、食(しょく)事(じ)をすませ、しばらくぶりにスーツを着(き)ると、玄(げん)関(かん)を出(で)た。そして、うちのとなりに建(た)った新(あたら)しい建(たて)物(もの)に入(はい)っていった。

34個目(こめ)の本棚(ほんだな)の前(まえ)。ゴリじいさんの大(おお)きな手(て)には、ゆうべ読(よ)み返(かえ)した『島(しま)の図(と)書(しょ)館(かん)』という本(ほん)があった。

(つづく)

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