Saturday, March 7, 2020

黒コウモリと白コウモリ★★

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ある森(もり)にコウモリの村(むら)があった。
その村(むら)の小(ちい)さな洞(どう)窟(くつ)にひとりのコウモリが住(す)んでいた。
名(な)前(まえ)はサカサ。
家(か)族(ぞく)はいない。友(とも)だちも……
 

ある夜(よる)、サカサは空(そら)を見上(み あ)げた。丸(まる)い月(つき)がきれいだった。
サカサはどこか遠(とお)いところまで飛(と)んで行(い)きたくなった。
                    
雲(くも)のない空(そら)をサカサは飛(と)んだ。
初(はじ)めて山(やま)を越(こ)えた。
大(おお)きな湖(みずうみ)があった。
そこで水(みず)を飲(の)んで少(すこ)し休(やす)んだ。

夜(よる)が明(あ)けるまで飛(と)び続(つづ)けた。
少(すこ)しも疲(つか)れていなかった。
どこまでも飛(と)んでいけると思(おも)った。


                                     
朝(あさ)になると、大(おお)きな木(き)を見(み)つけて、枝(えだ)にぶらさがって眠(ねむ)った。      
そして、夜(よる)が来(く)ると、また飛(と)んだ。


ある朝(あさ)、サカサが寝(ね)ていると、ガサッという音(おと)がした。
―― 鳥(とり) ? 
サカサは目(め)を開(あ)けた。




白(しろ)い羽はねのコウモリが枝えだに座すわっていた。
サカサはそのコウモリを見(み)て、とてもきれいだと思(おも)った。

サカサは、その白(しろ)い羽(はね)のコウモリに声(こえ)をかけた。

「ねえ、きみはコウモリ?」
「え、ええ。……あなたもコウモリ?」
「もちろん。……ぼく、白(しろ)い羽(はね)のコウモリなんてはじめて見(み)たよ」
「わたしも黒(くろ)い羽(はね)のコウモリを見(み)たのははじめて」
「えっ!? コウモリの羽(はね)はみんな黒(くろ)いだろ」
「そんなことないわ。わたしの家(か)族(ぞく)や友(とも)だちはみんな白(しろ)よ」
「そうなの!? ぼくが住(す)んでいた森(もり)のコウモリはみんな黒(くろ)だよ」
「ふうん、そう」
「でも、コウモリが枝(えだ)に座(すわ)るなんてちょっと変(へん)だよ」
「変(へん)? あなたこそ枝(えだ)にぶらさがるなんて変(へん)よ」    
「えっ!?」

ふたりの話(はなし)は、なかなかかみ合(あ)わない。
「ねえ、きみの名(な)前(まえ)は?」
「ミンミ。あなたは?」
「サカサ」
「サカサ? ふふふ。変(へん)な名(な)前(まえ)」
「そっちこそ!」

ふたりの話(はなし)はやっぱりかみ合(あ)わない。
けれど、ふたりは仲(なか)良(よ)くなった。


サカサはミンミの村むらで暮くらし始はじめた。
ミンミの家(か)族(ぞく)や友(とも)だちは本(ほん)当(とう)に羽(はね)が白(しろ)かった。
白(しろ)コウモリは小(ちい)さな羽(はね)を動(うご)かして、上(あ)がったり、下(さ)がったりして飛(と)ぶ。
黒(くろ)コウモリは大(おお)きな羽(はね)で風(かぜ)に乗(の)って飛(と)ぶ。
白(しろ)コウモリは朝(あさ)に起(お)きて夜(よる)に寝(ね)る。
みんな頭(あたま)を上(うえ)にして座(すわ)る。(だれもぶらさがらない)

サカサはミンミに言(い)った。
「白(しろ)コウモリは黒(くろ)コウモリと全(ぜん)然(ぜん)違(ちが)うね」
「でも、同(おな)じところもあるでしょ?」
「どこが?」
「食(た)べるし、寝(ね)るし、空(そら)を飛(と)ぶ」
「ははは、そうだね」
「それに……」
「それに?」
「白(しろ)コウモリもみんな同(おな)じじゃないわ。ひとりひとり顔(かお)も考(かんが)え方(かた)も違(ちが)う。黒くろコウモリもそうでしょ?」
「うん」
「だから、わたしはわたし。サカサはサカサ。……ふふふ、やっぱり変(へん)な名(な)前(まえ)」
 サカサはミンミとずっといっしょにいたいと思(おも)った。

サカサは、白(しろ)コウモリと同(おな)じように朝(あさ)に起(お)きて夜(よる)に寝(ね)た。
本当(ほんとう)は枝(えだ)にぶらさがりたかったけど、頭(あたま)を上(うえ)にして座(すわ)った。

でも、ミンミの家(か)族(ぞく)や友(とも)だちは、サカサのことをなかなか好(す)きになってくれなかった。



ある日(ひ)、ミンミはサカサに言(い)った。
「ねえ。わたし、サカサが生(う)まれた森(もり)を見(み)てみたい」

サカサはミンミを連(つ)れて森(もり)に帰(かえ)った。

そして、ふたりは小(ちい)さな洞(どう)窟(くつ)で静(しず)かに暮(く)らし始(はじ)めた。


森(もり)に住(す)んでいた黒(くろ)コウモリたちは、白(しろ)い羽(はね)のミンミを見(み)て、驚(おどろ)いた。
「おい。変(へん)なコウモリがいるぞ」
とだれかが言(い)った。
だれもミンミに話(はな)しかけてこなかった。

ある日(ひ)、山(やま)火(か)事(じ)が起(お)きた。
森(もり)が焼(や)け、洞(どう)窟(くつ)はどこも煙(けむり)でいっぱいになった。コウモリたちは必(ひっ)死(し)に逃(に)げた。
やがて雨(あめ)が降(ふ)り、火(ひ)は消(き)えた。


 
サカサもミンミも無(ぶ)事(じ)だった。
けれど、森(もり)にはもう住(す)めなくなった。

黒(くろ)コウモリたちは、みんな集(あつ)まり、これからどうしようかと話(はな)し合(あ)った。
でも、みんなどうすればいいかわからなかった。
だれも森(もり)の外(そと)に出(で)たことがなかったし、だれも他(ほか)に暮(く)らせる場(ば)所(しょ)を知(し)らなかった。

 
ひとりの黒(くろ)コウモリが言(い)った。
「この森(もり)が火(か)事(じ)になったのは、その白(しろ)コウモリのせいだ!」
「何(なに)!」
サカサは怒(おこ)って、その黒(くろ)コウモリに飛(と)びかかろうとした。
「やめて!」
ミンミはサカサを止(と)めた。
そして、みんなに言(い)った。

「わたし、いい場(ば)所(しょ)を知(し)ってる。ちょっと遠(とお)いけど。そこには、みんながぶらさがれるぐらいのとっても大(おお)きな木(き)があるの。そこでしばらく暮(く)らして、その間(あいだ)に新(あたら)しい洞(どう)窟(くつ)を見(み)つけるといいわ。……でも、そこには白(しろ)い羽(はね)のコウモリがたくさんいるの。わたしと同(おな)じ。それでもいいなら、わたしについてきて」

ミンミは飛(と)んだ。
「待(ま)って!」
サカサが飛(と)ぶと、少(すこ)し遅(おく)れてみんなもついてきた。



流(なが)れる星(ほし)
乾(かわ)いた風(かぜ)
冷(つめ)たい雨(あめ)
鳥(とり)の歌(うた)
大(おお)きな湖(みずうみ)
光(ひか)る虫(むし)
苦(にが)い果物(くだもの)
花(はな)の匂(にお)い

 
それは長(なが)い長(なが)い旅(たび)だった。

そして、ある晩(ばん)、ミンミの村(むら)にたどり着(つ)いた。
村(むら)の白(しろ)コウモリたちは、たくさんの黒(くろ)コウモリを見(み)て驚(おどろ)いた。
だれかが言(い)った。
「黒(くろ)い羽(はね)のコウモリはサカサだけじゃなかったんだ……」

白(しろ)コウモリたちはミンミから話(はなし)を聞(き)くと、食(しょく)事(じ)を出(だ)したり、村(むら)を案(あん)内(ない)したりしてあげた。
黒(くろ)コウモリたちは涙(なみだ)を流(なが)して感(かん)謝(しゃ)した。
「ありがとうございます。みなさんの親(しん)切(せつ)は絶(ぜっ)対(たい)に忘(わす)れません」

あの黒(くろ)コウモリが言(い)った。
「ミンミさん、あの時(とき)はひどいことを言(い)って本(ほん)当(とう)にすみませんでした」

黒(くろ)コウモリたちは枝(えだ)にぶらさがってゆっくり休(やす)んだ。


それを見(み)て、白(しろ)コウモリたちはまた驚(おどろ)いた。

やがて黒(くろ)コウモリたちは近(ちか)くの森(もり)に洞(どう)窟(くつ)を見(み)つけ、引(ひ)っ越(こ)して行(い)った。
サカサとミンミは村(むら)に残(のこ)った。
前(まえ)よりみんな親(しん)切(せつ)にしてくれた。

ある日(ひ)、村(むら)に大(おお)きな台(たい)風(ふう)が来(き)た。
強(つよ)い風(かぜ)が森(もり)の木(こ)の葉(は)を吹(ふ)き飛(と)ばした。
村(むら)の白(しろ)コウモリたちはみんな集(あつ)まり、どうしようかと話(はな)し合(あ)った。



その時(とき)、サカサが言(い)った。
「みんな! 黒(くろ)コウモリたちのところに行(い)こう! 洞(どう)窟(くつ)なら安(あん)全(ぜん)だ!」
「えっ! でも……」
「大(だい)丈(じょう)夫(ぶ)! 彼(かれ)らはきっと助(たす)けてくれる! それに、洞(どう)窟(くつ)は狭(せま)いけど、彼(かれ)らはいつも天(てん)井(じょう)にぶらさがっているから、床(ゆか)は空(あ)いているんだ」
「そうか!」
白(しろ)コウモリたちは、サカサについて黒(くろ)コウモリの洞(どう)窟(くつ)まで飛(と)んで行(い)った。
              
洞(どう)窟(くつ)に着(つ)いたとき、黒(くろ)コウモリたちはみんな天(てん)井(じょう)にぶらさがって眠(ねむ)っていた。
けれど、雨(あめ)で濡(ぬ)れた白(しろ)コウモリたちに気(き)が付(つ)くと、みんな飛(と)び起(お)きた。



黒(くろ)コウモリたちは喜(よろこ)んで、「よく来(き)てくれた!」とだれもが言(い)った。
白(しろ)コウモリたちは涙(なみだ)を流(なが)して喜(よろこ)んだ。
そして、いっしょに食(しょく)事(じ)をして、歌(うた)ったり、踊(おど)ったり、おしゃべりをして一(ひと)晩(ばん)中(じゅう)楽(たの)しく過(す)ごした。

そろそろ夜(よ)が明(あ)けるころ、みんな疲(つか)れて眠(ねむ)りについた。
サカサとミンミは外(そと)へ出(で)た。
台(たい)風(ふう)はもうどこかへ行(い)っていた。



「見(み)て。きれい」とミンミが言(い)った。
東(ひがし)の空(そら)に朝(あさ)日(ひ)が昇(のぼ)りはじめていた。
「きれいだね。でも、ほら、あっちも見(みて」
暗(くら)い西(にし)の空(そら)にはまだ月(つき)が残(のこ)っていた。
「ふふふ。あっちもきれい」
ミンミが笑(わら)うと、サカサも笑(わら)った。

ふたりは飛(と)んだ。
夜(よる)と朝(あさ)の、黒(くろ)と白(しろ)の間(あいだ)の空(そら)を。








(完)


2 comments:

  1. 楽しかった!ありがとうございます。

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    1. コメントをありがとうございました。気づくのがおそくて、すみませんでした。「楽しかった」と言ってもらえるのが、いちばんうれしいです!

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