「芝浜」★★★★


(しば)(はま)

 お(さけ)()きな(かた)というのは、なかなかお(さけ)やめられないものです。「(さい)(きん)(からだ)()(あい)(わる)いから」と()って(みっ)()ぐらいお(さけ)めても、(つぎ)()(さそ)われたらまた()みにいってしまいます。

 (ねん)(まつ)ですので、みなさんも(ぼう)(ねん)(かい)つい()みすぎてしまったなんてことありませんか。いや、()みすぎてもいいんです。(さけ)()んで(いち)(ねん)(いや)なことを(ぜん)()(わす)れてしまおうっていうのが(ぼう)(ねん)(かい)ですから。

  ですが大晦日(おおみそか)12月31日)(ばん)ぐらい()(ぞく)でゆっくり()ごしたいものです。(ふく)(ちゃ)でも()みながら(じょ)()(かね)(おと)()いて、「ああ、()(とし)()わる。(らい)(ねん)()(とし)になりますように」なんて(へい)()()()ちでお(しょう)(がつ)(むか)るのがいいですね。

 ただ、(むかし)(しょう)(ばい)をしている(かた)そんなのんきなこと()っていられませんでした。お(ぼん)大晦日(おおみそか)は、その(はん)(とし)()りたお(かね)(かえ)()だったからです。ですから、大晦日(おおみそか)()した(かた)()りた(かた)(たい)(へん)です。(とく)(びん)(ぼう)(にん)(ねん)(まつ)になるのが(こわ)くて(こわ)……

 さて、(とう)(きょう)(うお)(いち)()()えば(とよ)()(ゆう)(めい)ですが、()()()(だい)()(ほん)(ばし)にありました。そして、(しば)(はま)にも(うお)(いち)()があって、こちらでは(ちか)くで()れた(しん)(せん)(さかな)()っていました。

 (さかな)()(かつ)()(ろう)は、その(しば)(はま)(うお)(いち)()(さかな)()()れて、(しょう)(ばい)をしていました(さかな)()()っても、()(ぶん)(みせ)()っていたわけではありません。(さかな)(はん)(だい)という()()(もの)()れて、それを(ぼう)()るして、(かた)にかついで()(ある)のです。

 (かつ)()(ろう)(うで)のいい(さかな)()でしたが、(さけ)(だい)()きで、(さけ)()むと()(ごと)をさぼってしまう(わる)(くせ)がありました。それで、(おく)さんとふたり(びん)(ぼう)(くる)しい(せい)(かつ)をしておりました。

「ねえ、おまえさん。おまえさん! ()きて!」
「お、おう……(なん)だよ。いい()()ちで()てるのに。あーあ、ねむい。(なん)だよ?」
(なん)だよ、じゃないよ!  (はや)()きて(いち)()()って!」
(いち)()()けって?」
「そうよ。もう(とお)()(やす)んでるじゃない。(ねん)(まつ)(ちか)いのよ。どうするつもりなの?」
「わかってるよ! おまえに()われなくても」
「じゃあ、(はや)()かけて」
(はや)()かけろって()われても、(とお)()(やす)んでたんだ。(はん)(だい)……
(だい)(じょう)()よ。ちゃんと(みず)をはってあるから、いつでも使(つか)える」
「でも、(ほう)(ちょう)……
(みが)いといた」
「わらじは?」
「そこに()てる
「……」
さあ、(はや)()いて()かけて」
「ああ、わかったよ……()くよ()けばいいんだろ!」
 (かつ)()(ろう)()(とん)から()ると、()かける(よう)()をしました。
「そんないやな(かお)しないで……ほら、わらじが(あたら)しくて()()ちいいでしょ?」
()()ちいい? よくねえよ! ()きな(さけ)()んで、ゆっくり(あさ)()してるときが()()ちいいんだ。わらじ(あたら)しくて()()ちいいもんか!」
「そんな(いや)なこと()ずにいってらっしゃい」
「あー、いってきます」
 そう()って、(かつ)()(ろう)(いえ)()ました。

「うー、(さむ)い、(さむ)い。(さむ)くてすっかり()()ちまった。しかし、(さかな)()なんてつまんねえ()(ごと)だ。みんな()()ちよく()てる()(かん)()きて、こうやって()かけなきゃいけねえんだから……けど、みんなといっしょに()てたら、()(ごと)にならねえ……。ん? なんだか(くら)いなあ。なかなか(あか)るくならねえ

 (うお)(いち)()()きましたが、()いている(みせ)(ひと)つもありません。
(なん)だ。今日(きょう)(やす)みかよ……
 
 その(とき)、お(てら)(かね)()りました。ゴーン、ゴーン、ゴーン……
「あっ! あいつ、(とき)()(ちが)えて()こしたな。(くら)いわけだ……。まあ、()(かた)ねえ(はま)もぶらぶらするか。そのうち(みせ)()くだろう」

 (かつ)()(ろう)(はま)まで()くと、(なつ)かしい()()ちになりました。
おお、ひさしぶりだ。(うみ)においがする。いい()()ちだ 」
 
 (うみ)(はい)って(かお)(あら)って、ぶらぶら(ある)いていると、(なん)(あし)()っかかりました。
「ん? (なん)だ、これは?」 



「……(かわ)(さい)()……(おも)……(なか)……か、(かね)だ。(たい)(へん)だ!」
 (かつ)()(ろう)(あわ)てて(さい)()(はら)()けにしまうと、(いそ)いでうち(かえ)りました。

「おい、()けてくれ! ()けてくれ!」
「はいはい、()けますよ。ごめんよ。(とき)()(ちが)えて(はや)()こしてしまって……あら、どうしたの? ()(さお)(かお)して。けんかでもしたの?」
「そうじゃねえ。(はま)……さ、(さい)()(ひろ)ったんだ。(なか)()ると、(かね)たくさん(はい)て……ほら、これだ
「えっ、お(かね)……あら、(ほん)(とう)……いくら(はい)ってるの?」
さあ、わからねえ。(かぞ)えてみる
 (かつ)()(ろう)(さい)()のお(かね)(ぜん)()()して、(かぞ)えはじめた。
(いち)()(さん)……()(じゅう)()(りょう)
()(じゅう)()(りょう)……
わっははは。これだけ(かね)があれば、(しゃっ)(きん)(ぜん)()(かえ)して、()きなだけ()んで、(あそ)んで()らしていける。よし、(たつ)(こう)(はち)(こう)(とら)んべえ、みんな()んで(いわ)! (いま)から()()()()って、(かえ)りにみんな()んでくるから、(さけ)(よう)()しててくれ

 (かつ)()(ろう)(おお)(よろこ)びで()かけて()きました。そして、みんなを()れてくると、()んで(うた)って(おお)(さわ)ぎ。(かつ)()(ろう)()っぱらって、そのまま(たたみ)(うえ)()しまいました。

「おまえさん、おまえさん! ()きてよ」
「ん、(なん)だよ?」
(なん)だよ、じゃないよ! そんなところで()ていないで、布団(ふとん)(はい)って()なさい! 明日(あした)(あさ)(はや)いんだから」
明日(あした)(あさ)? (じょう)(だん)じゃねえ()(ごと)なんか()かねえよ
(なに)()ってるの!? ()(ごと)()かないでどうするつもりなの? (ねん)(まつ)(ちか)いのよ」
「おまえこそ、(なに)()ってるんだ。()(じゅう)()(りょう)があるじゃねえか」
()(じゅう)()(りょう)? どこにあるの? そんなお(かね)
「うはは、(じょう)(だん)()っちゃいけねえよ。おれが()()(はま)(ひろ)って()()(じゅう)()(りょう)だよ。(かわ)(さい)()の」
(なに)()ってるの!? あなた()()(はま)なんかに()ってないでしょ
(なに)!? ()ってない? おまえが(とき)()(ちが)えて()こしてしまっ、まだ(いち)()(ひら)いてねえから(はま)でぶらぶらしてるときに、(かわ)(さい)()()つけたんだ。それをうちに()って(かえ)ってきて、おまえにわたしたじゃねえか!?」
……そうだったのね。やっとわかった。どうして(きゅう)にみんなと(ひる)()から(さけ)なんか()んで(おお)(さわ)ぎしたのか。あなた(ゆめ)()たのよ。お(かね)(ひろ)(ゆめ)……
「えっ、(ゆめ)
「そう(ゆめ)。うちが(びん)(ぼう)で、お(かね)がほしい、お(かね)がほしいって(おも)ってたから(ゆめ)()たのよ。あなた、ほら、()()(なか)()て。(なに)もないでしょ? この(あいだ)(たつ)さんに()われたの。『おたくは(なに)(どう)()がないから、()()(ひろ)使(つか)えていいです。ほかのうちと(ちが)って、(ろく)(じょう)(ろく)(じょう)のまま使(つか)える』って。わたし、()ずかしくて()ずかしくて……()(じゅう)()(りょう)もあったら、そんなこと()われるもんですか。()()のあなたは、()こしても()こしても()きなくて、ようやく(ひる)になって()きたかと(おも)ったら、()()()()かけて、(かえ)りに(とも)だちを()れてきて、(さけ)だ、うなぎだ、(てん)ぷらだ、って()んで(うた)って(おお)(さわ)ぎ。(なに)がうれしいのか()らないけど、(いわ)いだ(いわ)いだって()って。(けっ)(きょく)()っぱらって()てしまって……。いったいいつ(いち)()()ったっていうのよ?」
(ほん)(とう)(ゆめ)なのか? ずいぶんはっきりした(ゆめ)だなあ。どうも(ゆめ)とは(おも)ねえけど……
(なに)!? あなた、わたしのこと(しん)じられないの!? じゃあ、その(かわ)(さい)()(さが)してみたらいいじゃない! (ゆか)(した)でも(てん)(じょう)(うら)でも()きなだけ調(しら)べてよ! (なに)(どう)()のない()()だから、すぐ調(しら)べられるでしょ!
い、いや、(しん)じるよ。……(ゆめ)……そうか、(ゆめ)かもしれねえ。いや、(ゆめ)だ。(おも)()したおれは(ちい)さい(ころ)から、はっきりした(ゆめ)()(くせ)があったんだ……しかし、そうすると、(かね)(ひろ)ったのは(ゆめ)で、()んだり()ったりしたのは(ほん)(とう)……(ねん)(まつ)(ちか)いのに、また(かね)使(つか)っちまった……どうしよう……()のうか?」
「だめよ!」
「じゃあ、どうする?」
(はたら)くしかないわよ。(いっ)(しょう)(けん)(めい)(はたら)けば、きっとなんとかなる。(いち)()()んで()まれ()わったと(おも)ってがんばろう」
「わかった今日(きょう)から(こころ)()()えて(いっ)(しょう)(けん)(めい)(はたら)く。もう(さけ)はやめた

 それから(かつ)()(ろう)(さけ)をぴたっとめて(まい)(にち)(ねっ)(しん)(はたら)ようになりました。すると、もともと(うで)のいい(さかな)()ですから、どんどん(きゃく)()えて、(おもて)(どお)りに(ちい)さい(みせ)()つまでになりました。

 そして、ちょうど(さん)(ねん)()大晦日(おおみそか)(ばん)

「なあ、(かた)()けものがすんだら、こっちへ()いよ」
「はいはい。ようやくすんだところよ」
ああ、(あたら)しい(たたみ)()()ちいいなあ。こうやって(たたみ)()()えた()()(しょう)(がつ)(むか)えられるなんて(しあわ)せだ。それに、もう(ひと)つも(しゃっ)(きん)(かえ)すところがねえんだろ? (ほん)(とう)か?
(ほん)(とう)よ」
大晦日(おおみそか)(しゃっ)(きん)()りが()ねえなんて(しん)じられねえなあ……おい、お(ちゃ)(いっ)(ぱい)くれ」
「はい。ちょうど(ふく)(ちゃ)(はい)ったところよ。どうぞ」
(ふく)(ちゃ)か。ひさしぶりだなあ。もうどんな(あじ)(わす)れたよ……おお、これが(ふく)(ちゃ)(あじ)か」
 ゴーン…………ゴーン…………ゴーン…………
「おっ、(じょ)()(かね)か……いい(おと)だなあ」
「ねえ、おまえさん。ちょっと()ほしいものがあるの」
(なん)だ?」
「これ」
「これは……(かわ)(さい)()……
(なか)()(じゅう)()(りょう)(はい)ってる
「し、()(じゅう)()(りょう)!」
「……ねえ、おまえさん、(おぼ)えてない? (かわ)(さい)()()(じゅう)()(りょう)
「そう()えば、(さん)(ねん)(まえ)(はま)()(じゅう)()(りょう)(はい)(さい)()(ひろ)った(ゆめ)をみたっけなあ
「それ(ゆめ)じゃないのよ」
(なに)!? おまえ!!
(おこ)らないで! (さい)()まで(はなし)()いて! わたし、あの(とき)、どうしようって(おも)ったの。だって、あなた明日(あした)から()(ごと)もしないで(あそ)んで()らすって()うし……(こま)ったなあって(おも)って、あなたが()っぱらって()ている(あいだ)(おお)()さんに(そう)(だん)()ったの。そしたら、(おお)()さん(ひろ)った(かね)使(つか)えば、お(かみ)(つか)まってしまう。すぐにおれがお(かみ)(とど)てやるから、(かつ)()(ろう)には(ゆめ)だったとうそをつけ』って()われて……それで、そのとおり(ゆめ)だ、(ゆめ)だってうそをついたらおまえさんいい(ひと)だから(ほん)(とう)(しん)じちゃって……()きなお(さけ)もすっかりやめて、(いっ)(しょう)(けん)(めい)(はたら)いてくれた。そのおかげで、こうやって(みせ)()てられたんだけど……おまえさんが(ゆき)(あさ)(はや)()きして()かけていくときなんかには、いつも(こころ)(なか)(あやま)っていたのよ。……このお(かね)も、結局(けっきょく)()とした(ひと)()つからないからって、ずいぶん(まえ)にお(かみ)から(もど)ってきたの。でも、これをおまえさんに()せてまた(はたら)かなくなったらどうしようって(おも)ったら……()えなかった」
「おまえ……
「けど、そろそろおまえさんを(すこ)(らく)にしてあげたいって(おもって……このおかねしたの。はらったでしょ? ぶんつまにずっとうそをつかれて、だまされていたなんて……ごめんなさい」
(はら)……()たねえ。(えら)いよ、おまえは。たしかに、あの(とき)(かね)()ったままだったら、おれは()んだり、()ったり、ぶらぶらして、あっという()(ぜん)()使(つか)ちまった。それか、(おお)()()とおり、お(かみ)(つか)まってたかもしれねえ。おれが(いま)こうやって()(らく)(しょう)(がつ)(むか)えられるのは、ぜんぶおまえのおかげじゃねえか。ありがとよ」
「な、(なに)よ。おまえさん。じゃあ、(ゆる)してくれるの?」
「もちろんだ」
……うれしい。……じゃあ、今日(きょう)ひさしぶりにお(さけ)()んで。(じつ)(よう)()してたの」
「えっ、(さけ)を!? いいのか? 」
いいのよ。ずっと()(まん)してたんだから。()んでよ。さあ、どうぞ」
「おお、ありがたい。じゃあ、ひさしぶりに一杯(いっぱい)()ませてもらおうか……おっとっと……ああ、いいにおいだ……では、いただきま……
「どうしたの?」
「やめた。また(ゆめ)なるといけねえ」

〈おしまい〉

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