Sunday, January 15, 2023

走れメロス★★★★★

 走はしれメロス [簡約]かんやく 

原作(げんさく):太宰(だざい)治(おさむ)

 

 メロスは怒(おこ)らずにはいられなかった。絶対(ぜったい)に、人々を苦(くる)しめる王(おう)をそのままにしてはおけぬ、と決意(けつい)した。メロスには政(せい)治(じ)などわからない。メロスは、羊(ひつじ)飼(か)いである。村(むら)でのんびり羊(ひつじ)と遊(あそ)んで暮(く)らしてきた。けれども、悪(あく)に対(たい)しては、だれよりも敏感(びんかん)だった。

今朝早いうちにメロスは村(むら)を出発(しゅっぱつ)し、野(の)を越(こ)え、山を越(こ)え、十(じゅう)里(り)(約(やく)40km)も離(はな)れたシラクスの町へやって来た。メロスには、父も母もいない。独身(どくしん)で、十六歳(さい)の内(うち)気(き)な妹と二人で暮(く)らしている。この妹は、村(むら)のまじめな青年(せいねん)と、近々(ちかぢか)、結婚(けっこん)することになっていた。メロスは、その結婚式(けっこんしき)で使う花(はな)嫁(よめ)の衣(い)装(しょう)やらパーティーのご馳(ち)走(そう)やらを買いに、わざわざ遠(とお)く離(はな)れたこの町までやって来たのだ。それで、まず、その品々(しなじな)を買い集(あつ)め、それから大通(おおどお)りをぶらぶら歩(ある)いた。

メロスには親友(しんゆう)がいた。セリヌンティウスである。今はこのシラクスの町で、石工(せっこう)の仕事をしている。その友(とも)を、これから訪(たず)ねてみるつもりなのだ。長い間会っていなかったので、訪(たず)ねて行くのが楽しみだ。

だが、歩(ある)いているうちにメロスは、町の様子(ようす)がおかしいと思った。もうすでに日も落(お)ちて、暗(くら)いのは当(あ)たり前(まえ)だが、なんだか静(しず)かで、町全体(ぜんたい)がずいぶん寂(さび)しい感(かん)じがした。呑気(のんき)なメロスも、だんだん不(ふ)安(あん)になってきた。そこで、道を歩(ある)いていた若者(わかもの)をつかまえて、

「何かあったのか。二年前に、ここに来たときは、町はもっとにぎやかで、夜でもみんな歌(うた)を歌(うた)っていたはずだが」と質問(しつもん)した。

けれど、若者(わかもの)は、首(くび)を振(ふ)って答(こた)えなかった。

しばらく歩(ある)いていくと、一人の老人(ろうじん)に会った。今(こん)度(ど)はもっと強い口調(くちょう)で質問(しつもん)したが、彼(かれ)は答(こた)えなかった。メロスは老人(ろうじん)の体を両手(りょうて)でゆすり、質(しつ)問(もん)を繰(く)り返(かえ)した。すると、彼(かれ)は、まわりを気にしながら、低(ひく)い声(こえ)でそっと答(こた)えた。

「王(おう)様(さま)は、人を殺(ころ)します」

「なぜ殺(ころ)すのだ」

「『悪心(あくしん)を抱(いだ)いている』と言うのですが、だれもそんな悪心(あくしん)を持っておりません」

「たくさんの人を殺(ころ)したのか」

「はい、はじめは王(おう)様(さま)の妹のご主(しゅ)人(じん)さまを殺(ころ)しました。それから、ご自(じ)身(しん)のお子さんを。それから、妹さまを。それから、妹さまのお子さまを。それから、奥(おく)さまを。それから、家来(けらい)のアレキス様(さま)を……」

「驚(おどろ)いた。国(こく)王(おう)は気が狂(くる)ったのか」

「いいえ、そうではございません。王(おう)は『人を信(しん)じることなどできぬ』と言うのです。このごろは、家来(けらい)の心さえお疑(うたが)いなり、少し派手(はで)な生活(せいかつ)をしている者(もの)には、人質(ひとじち)をひとりずつ差(さ)し出すことを命(めい)じております。そして、そのご命(めい)令(れい)に逆(さか)らえば、十(じゅう)字(じ)架(か)に磔(はりつけ)にされ、殺(ころ)されます。きょうは、六人殺(ころ)されました」

 それを聞いて、メロスは怒(おこ)った。

「なんとひどい王(おう)だ。生(い)かしておけぬ!」

 メロスは、単純(たんじゅん)な男だった。買い物を背負(せお)ったまま、のんびりと王(おう)の城(しろ)へと入って行った。だが、すぐに城(しろ)を守(まも)る警(けい)吏(り)に捕(つか)まった。調(しら)べられて、メロスの懐(ふところ)から短刀(たんとう)が出てきたので、騒(さわ)ぎが大きくなってしまった。メロスは、ディオニス王(おう)の前に引き出された。ディオニス王(おう)は静(しず)かに、落(お)ち着(つ)いた声(こえ)で言った。

「この短刀(たんとう)で何をするつもりだったか。言え!」

見ると、王(おう)の顔(かお)は青(あお)白(じろ)く、眉(まゆ)の間には刻(きざ)み込(こ)まれたように深(ふか)い皺(しわ)があった。

「人々を苦(くる)しめる王(おう)の手から、この町を救(すく)おうとしたのだ」とメロスは答(こた)えた。

「おまえがか? ふふ、仕(し)方(かた)のない奴(やつ)だ。おまえには、わしの考(かんが)えていることなど理(り)解(かい)できぬ」

「何だと! 人の心を疑(うたが)うのは、最(もっと)も恥(は)ずかしいことだ。あなたは、この町の人々さえ信(しん)じられないのか」

「自分を守(まも)るために、疑(うたが)って何が悪(わる)い。それが正(ただ)しいことだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心を信(しん)じてはならぬ。人間(にんげん)は生まれた時からわがままなものさ。わしだって、本当は平和(へいわ)を望(のぞ)んでいるのだが」

「ははは、何のための平(へい)和(わ)だ。自分の地(ち)位(い)を守(まも)るためか。罪(つみ)のない人を殺(ころ)して、何が平(へい)和(わ)だ!」

「だまれ、おまえのような者(もの)に何がわかる! 口では、どんなきれい事(ごと)も言える。だが、人はみな心の奥底(おくそこ)に悪心(あくしん)を抱(いだ)いているのだ。どうせ、おまえも十字架(じゅうじか)に磔(はりつけ)になって殺(ころ)されそうになれば、泣(な)いて謝(あやま)るにちがいない」

「ああ、あなたは利(り)口(こう)だ。そうやって何でもわかったつもりでいればいい。私は、ちゃんと死(し)ぬる。助(たす)けてくれ、とは決(けっ)して口にしない。ただ、――」

と言いかけて、メロスは下を向(む)いて、一(いっ)瞬(しゅん)迷(まよ)ったが、

「ただ、私に情(なさ)けをかけてくれるなら、死(し)刑(けい)までに時間を与(あた)えてくれませんか。たった一人の妹の結婚式(けっこんしき)を挙(あ)げてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式(けっこんしき)を挙(あ)げさせ、必(かなら)ず、ここへ帰って来ます」

「ははは、馬鹿(ばか)なことを言うな。とんでもない嘘(うそ)を言うじゃないか。逃(に)がした小(こ)鳥(とり)が帰って来るとでも言うのか」

「そうです。きっと帰って来ます。私は約束(やくそく)を守(まも)ります。私を、三日間だけ許(ゆる)してください。妹が、私の帰りを待っているのです。そんなに私を信(しん)じられないのならば、この町にセリヌンティウスという石工(せっこう)がいます。私の一番の友だ。彼(かれ)を、人質(ひとじち)としてここに置(お)いて行きます。三日目の日暮(ひぐ)れまでに、私がここに帰って来なかったら、その友を殺(ころ)してください。頼(たの)みます、そうしてください」

 それを聞いて王(おう)は、にやっと笑(わら)った。生(なま)意(い)気(き)なことを言う奴(やつ)だ。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘(うそ)つきにだまされたふりをして、放(はな)してやるのもいいだろう。そして、人質(ひとじち)の男を、三日目に殺(ころ)してやるのも、おもしろい。わしは、「これだから、人は信(しん)じられぬ」と、みんなの前で悲(かな)しい顔(かお)して、その男を殺(ころ)すのだ。ああ、世(よ)の中(なか)の正(しょう)直(じき)者(もの)という奴(やつ)らにぜひ見せてやりたいものだ。

「いいだろう。その男を呼(よ)べ。三日目の日が沈(しず)むまでに帰って来るんだな。遅(おく)れたら、その人質(ひとじち)を、きっと殺(ころ)すぞ。ちょっと遅(おく)れて来るがいい。おまえの罪(つみ)は、永遠(えいえん)に許(ゆる)してやる」

「な、何をおっしゃる」

「はは。命(いのち)が大事(だいじ)だったら、遅(おく)れて来い。おまえの本心(ほんしん)は、わかっているぞ」

 メロスは悔(くや)しくて、拳(こぶし)をぎゅっと握(にぎ)りしめた。何も言いたくなくなった。

 親友(しんゆう)のセリヌンティウスは、深(しん)夜(や)、お城(しろ)にやってきた。そうして、王(おう)の目の前でふたりは、二年ぶりに会うことができたのだった。メロスは、友にこれまでの事(じ)情(じょう)をすべて語(かた)った。セリヌンティウスは黙(だま)ってうなずき、メロスをひしと抱(だ)きしめた。ふたりには、それで十分(じゅうぶん)だった。セリヌンティウスは、縄(なわ)で縛(しば)られた。メロスは、すぐに出発(しゅっぱつ)した。夏(なつ)の初(はじ)め、夜(よ)空(ぞら)は星(ほし)でいっぱいだった。

 

メロスは、夜も寝(ね)ないで十(じゅう)里(り)の道を走(はし)り続(つづ)けた。村へ到着(とうちゃく)したのは、明(あ)くる日の午前だった。日はすでに高く昇(のぼ)っており、村人(むらびと)たちは野(の)に出て仕事を始(はじ)めていた。メロスの十六の妹も、きょうは兄の代(か)わりに羊(ひつじ)の世話(せわ)をしていた。妹(いもうと)は、疲(つか)れ切(き)った兄の姿(すがた)を見つけて驚(おどろ)いた。そして、うるさく兄に質問(しつもん)した。だが、「何でもないさ」とメロスは無理(むり)に笑(わら)った。

「町に用(よう)事(じ)を残(のこ)して来た。またすぐ行かなければならない。明日、おまえの結婚式(けっこんしき)を挙(あ)げる。早いほうがいいだろう?」

 妹は頬(ほお)を赤(あか)らめた。

「うれしいか。きれいな衣(い)装(しょう)も買って来た。さあ、これから行って、村の人たちに知(し)らせて来い。結婚式(けっこんしき)は、明日だと」

 メロスは、また、よろよろと歩(ある)き出し、家へ帰って結(けっ)婚(こん)式(しき)の準(じゅん)備(び)をすると、まもなく床(ゆか)に倒(たお)れて、深(ふか)い眠(ねむ)りに落(お)ちてしまった。

 目が覚(さ)めたのは夜だった。メロスは起きてすぐ、花婿(はなむこ)の家を訪(おとず)れた。そして、花(はな)婿(むこ)になる青(せい)年(ねん)に、

「少し事(じ)情(じょう)があるから、結婚式(けっこんしき)を明日にしてくれ」と頼(たの)んだ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。こちらはまだ何も仕(し)度(たく)ができていない。もう少し待ってくれないか」

「待つことはできぬ。どうか明日にしてくれ」

しかし、彼もなかなか、わかった、とは言ってくれない。夜(よ)明(あ)けまで議(ぎ)論(ろん)を続(つづ)けて、やっと、どうにか説得(せっとく)することができた。

結婚式(けっこんしき)は、真昼(まひる)に行(おこな)われた。式(しき)の途中(とちゅう)から、黒い雲(くも)で空は覆(おお)われ、ぽつりぽつりと雨が降(ふ)り出し、やがて激(はげ)しい雨となった。パーティーに出席(しゅっせき)していた村人(むらびと)たちは、どこか暗(くら)い気持ちになったが、みんな盛(も)り上げようと、狭(せま)い家の中で蒸(む)し暑(あつ)さに耐(た)え、陽(よう)気(き)に歌(うた)を歌(うた)い、手を叩(たた)いた。メロスも、ともに喜(よろこ)びを味(あじ)わい、しばらくは王(おう)様(さま)との約(やく)束(そく)さえ忘(わす)れていた。

パーティーは、夜になると、いよいよ盛(も)り上がって、人々は外の大雨(おおあめ)など全(まった)く気にしなくなった。メロスは、一生(いっしょう)このままここにいたい、と思った。この人たちと死(し)ぬまで暮(く)らして行きたいと願(ねが)った。だが、今は、この身体(からだ)は自分だけのものではない。どうにもならないことである。メロスは、やはりここにはいることはできぬ、と思い直(なお)し、ついに出発(しゅっぱつ)を決意(けつい)した。

明日の日暮(ひぐ)れまでには、まだ十分(じゅうぶん)な時間がある。ちょっと一眠(ひとねむ)りして、それからすぐに出(しゅっ)発(ぱつ)しよう、と考(かんが)えた。その頃(ころ)には、雨も小降(こぶ)りになっているだろう。少しでも長い時間この家にとどまっていたかった。メロスのような男にも、やはり諦(あきら)めがたいものがある。幸(しあわ)せいっぱいの花(はな)嫁(よめ)に近(ちか)寄(よ)ると、

「おめでとう。私は疲(つか)れてしまったから、もう失礼(しつれい)して、眠(ねむ)りたい。目が覚(さ)めたら、すぐに町に出かける。大切な用事(ようじ)があるのだ。私がいなくても、もうおまえには優(やさ)しい夫(おっと)がいるのだから、決(けっ)して寂(さび)しいことはない。おまえの兄の一番嫌(きら)いなものは、人を疑(うたが)うことと、それから、嘘(うそ)をつくことだ。おまえも、それは、知(し)っているね。夫(おっと)との間に、どんな秘(ひ)密(みつ)でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉(えら)い男なのだから、おまえもその誇(ほこ)りを持っていろ」

 妹は、夢(ゆめ)でも見ているかのよう表情(ひょうじょう)でうなずいた。メロスは、それから花婿(はなむこ)の肩(かた)を叩(たた)いて、

「結(けっ)婚(こん)の支(し)度(たく)ができなかったのは、お互(たが)いさまだ。私の家にも、宝(たから)と言ったら、妹と羊(ひつじ)しかない。他(ほか)には、何もない。全(ぜん)部(ぶ)あげよう。もう一つ、メロスの弟になったことを誇(ほこ)りに思ってくれ」

 花婿(はなむこ)は恥(は)ずかしそうにうなずいた。メロスは笑(わら)って村(むら)人(びと)たちにも頭(あたま)を下(さ)げ、その場(ば)を立ち去(さ)った。それから、羊(ひつじ)小(ご)屋(や)にこっそり潜(もぐ)り込(こ)んで、死(し)んだように深(ふか)く眠(ねむ)った。

 

 目が覚(さ)めたのは、日が昇(のぼ)り、明るくなりかけた頃(ころ)である。メロスは飛(と)び起きた。しまった、寝過(ねす)ごしたか! いや、まだ大丈夫。これからすぐ出発(しゅっぱつ)すれば、約束(やくそく)の時刻(じこく)までには十分(じゅうぶん)間(ま)に合(あ)う。きょうこそ、あの王(おう)に、人の信実(しんじつ)というものを見せてやろう。そして、笑(わら)って磔(はりつけ)台(だい)に上(のぼ)ってやる。メロスは、慌(あわ)てることなく仕(し)度(たく)を始(はじ)めた。雨も、少し小降(こぶ)りになっている様子(ようす)である。出かける仕度(したく)はできた。メロスは、ぶるんと両腕(りょううで)を大きく振(ふ)って、雨の中、矢(や)のように走(はし)り出(で)た。

 私は、今夜、殺(ころ)される。殺(ころ)されるために走(はし)るのだ。友を救(すく)うために走(はし)るのだ。王(おう)の、ずる賢(がしこ)く曲(ま)がった心を打(う)ち破(やぶ)るために走(はし)るのだ。走(はし)らなければならぬ。そうして、私は殺(ころ)される。若(わか)い時から名(めい)誉(よ)を守(まも)れ。さようなら、ふるさと。

若(わか)いメロスは、つらかった。何度か立ち止(ど)まりそうになった。「えい、えい」と大声(おおごえ)を上げて自分自身(じしん)を叱(しか)りながら走(はし)った。村を出て、野(の)を横(よこ)切(ぎ)り、森を抜(ぬ)け、隣(となり)の村に着(つ)いた頃(ころ)には、雨も止(や)み、日は高く昇(のぼ)って、そろそろ暑(あつ)くなってきた。メロスは額(ひたい)の汗(あせ)を拳(こぶし)で払(はら)い、ここまで来れば大丈夫、もうあの村でやるべきことは何もない、と思った。妹たちは、きっと良い夫婦(ふうふ)になるだろう。私には、今、何の迷(まよ)いもないはずだ。まっすぐにお城(しろ)に行き着(つ)けば、それでよいのだ。そんなに急(いそ)ぐ必(ひつ)要(よう)もない。ゆっくり歩(ある)こう、といつもの呑(のん)気(き)なメロスに戻(もど)り、好きな小(こ)歌(うた)をいい声(こえ)で歌(うた)い出した。

ぶらぶら歩(ある)いて二里(にり)行き三里(さんり)行き、そろそろ五里(ごり)になる頃(ころ)、突然(とつぜん)の災難(さいなん)に、メロスの足は止(と)まった。見よ、目の前の川を。

きのうの大雨(おおあめ)で、山の方(ほう)では大量(たいりょう)の水が川にあふれ、その茶(ちゃ)色(いろ)く濁(にご)った水が止(と)まることなく下(か)流(りゅう)に集(あつ)まり、ものすごい勢(いきお)いで流(なが)れ込(こ)んで来て、橋(はし)を粉々(こなごな)に壊(こわ)してしまったのだ。彼(かれ)は予想外(よそうがい)の出来事(できごと)に固(かた)まってしまった。あちこち眺(なが)めまわし、大声(おおごえ)で呼(よ)んでみたが、繋(つな)いであった舟(ふね)は残(のこ)らず波(なみ)に流(なが)されて、舟(ふね)を渡(わた)す人の姿(すがた)も見えない。

流(なが)れは、ますます大きくなり、まるで海のようになっている。メロスは川岸(かわぎし)で膝(ひざ)をついて、泣(な)きながら、手を上げて神(かみ)に祈(いの)った。

「ああ、ゼウス様(さま)。この荒(あ)れ狂(くる)う川の流(なが)れを鎮(しず)めてください! 太陽(たいよう)はすでに真上(まうえ)まで来ています。あれが沈(しず)まぬうちに、お城(しろ)まで行き着(つ)くことができなかったら、友が、私のために死(し)ぬのです!」

 メロスの叫(さけ)びを、あざ笑(わら)うかのように、川の流(なが)れはますます激(はげ)しくなる。波(なみ)は荒(あ)れに荒(あ)れ、時(とき)は刻々(こっこく)と過(す)ぎていく。

こうなったら、泳(およ)ぎ切(き)るしかない。ああ、神々(かみがみ)よ、ご覧(らん)ください! 何にも負(ま)けない愛(あい)と信(しん)実(じつ)の力(ちから)を。

メロスは、ざぶんと川に飛(と)び込(こ)み、必(ひっ)死(し)に泳(およ)いだ。全(ぜん)身(しん)の力(ちから)を腕(うで)に込(こ)めて、「負(ま)けてたまるか!」と、暴(あば)れる波(なみ)を掻(か)きわけ掻(か)きわけ、進(すす)んで行った。神(かみ)は、そんなメロスを見て、かわいそうだと思ったのか、ついに情(なさ)けをかけてくれた。押(お)し流(なが)されつつも、見(み)事(ごと)、向(む)かい岸(ぎし)の木の幹(みき)に、しがみつくことができたのである。

ありがたい。メロスは馬(うま)のようにぶるんと大きく体を震(ふる)わせ、水を払(はら)い飛(と)ばすと、すぐにまた先(さき)を急(いそ)いだ。少しの時間も無駄(むだ)にはできない。日はすでに西(にし)に傾(かたむ)きかけている。

ぜいぜい荒(あら)い呼(こ)吸(きゅう)をしながら山(やま)道(みち)を登(のぼ)り、頂上(ちょうじょう)でほっとした瞬間(しゅんかん)、突然(とつぜん)、目の前に四人の山賊(さんぞく)が現(あらわ)れた。

「待て!」

「何をするのだ。私は日が沈(しず)むまでに、お城(しろ)へ行かなければならないのだ。放(はな)せ!」

「そうはいかない。持ち物を全部(ぜんぶ)置(お)いて行け」

「私には命(いのち)の他(ほか)には何もない。その、たった一つの命(いのち)も、これから王(おう)にくれてやるのだ」

「その、命(いのち)がほしいのだ」

「そうか。おまえたちは王(おう)の命令(めいれい)で、ここで隠(かく)れて、私を待っていたのだな」

 山賊(さんぞく)たちは、何も言わずに、いっせいに持っていた棍棒(こんぼう)を振(ふ)り上げ、メロスに襲(おそ)いかかった。メロスはひょいと体を折(お)り曲(ま)げ、近(ちか)くにいた一人に飛(と)びかかると、その棍(こん)棒(ぼう)を奪(うば)い取(と)り、「気(き)の毒(どく)だが正(せい)義(ぎ)のためだ!」と一撃(いちげき)をくわえた。そして、あっという間(ま)に三人を殴(なぐ)り倒(たお)すと、残(のこ)った一人はもう向(む)かって来なかった。メロスは、それにはかまわず、さっさと山を下(くだ)った。

一(いっ)気(き)に山を駈(か)け降(お)りたが、やはり疲(つか)れてきた。ちょうどその頃(ころ)から、午後の太陽(たいよう)がまぶしいほどに照(て)ってきた。暑(あつ)さでメロスは何度もめまいを感(かん)じた。だめだ、だめだ、と気を取(と)り直(なお)しては、よろよろ二、三歩(ぽ)歩(ある)いたが、ついに、がくりと膝(ひざ)を折(お)った。立ち上がることができないのだ。メロスは悔(くや)しさのあまり、空(そら)に向(む)かって泣(な)き出した。

ああ、荒(あ)れた川を泳(およ)ぎ切(き)り、山(さん)賊(ぞく)を三人も撃(う)ち倒(たお)し、急(いそ)ぎに急(いそ)いで、ここまで突破(とっぱ)して来たメロスよ。真(しん)の勇者(ゆうしゃ)、メロスよ。今、ここで、疲(つか)れ切(き)って動(うご)けなくなるとは情(なさ)けない。愛(あい)する友は、おまえを信(しん)じたばかりに、やがて殺(ころ)される。おまえは信用(しんよう)できない人間(にんげん)か、それでは王(おう)の思っていたとおりになるぞ、と自分を叱(しか)ってみるのだが、ほんの少しの力(ちから)も入らず、もう一歩(いっぽ)も歩(ある)けない。道端(みちばた)の草原(そうげん)に、ごろりと寝(ね)転(ころ)がった。体が弱(よわ)れば、心も弱(よわ)る。もうどうでもいい、という勇(ゆう)者(しゃ)には不(ふ)似(に)合(あ)いな気持ちが生まれた。

 

私は、これほど努(ど)力(りょく)したのだ。

約束(やくそく)を破(やぶ)る心は、ほんの少しもなかった。

神(かみ)も知(し)っているはずだ。

私はできるだけのことをしてきた。

動(うご)けなくなるまで走(はし)ってきたのだ、愛(あい)と信実(しんじつ)のために。

けれども私は、この大(だい)事(じ)な時に、心が折(お)れた。

私は、本当に不(ふ)幸(こう)な男だ。

私は、きっと笑(わら)われる。

私の一家(いっか)も笑(わら)われる。

私は友を裏(うら)切(ぎ)った。

途(と)中(ちゅう)で倒(たお)れるのは、はじめから何もしないのと同じことだ。

ああ、もう、どうでもいい。

これが、私の運(うん)命(めい)なのかもしれない。

セリヌンティウスよ、許(ゆる)してくれ。

君(きみ)は、いつでも私のことを信(しん)じてくれた。

私も君(きみ)を、裏(うら)切(ぎ)らなかった。

私たちは、本当に良い友だちだった。

一度だってお互(たが)い疑(うたが)ったことなどなかった。

今だって、君(きみ)は私を信(しん)じて待ってくれているだろう。

きっと、待っているだろう。

ありがとう、セリヌンティウス。

よくも私を信(しん)じてくれた。

それを思えば、たまらない。

友と友との間の信実(しんじつ)は、この世(よ)で一番誇(ほこ)るべき宝(たから)なのだからな。

セリヌンティウス、私は走(はし)ったのだ。

君(きみ)をだますつもりは、少しもなかった。

信(しん)じてくれ! 

私は急(いそ)ぎに急(いそ)いでここまで来たのだ。

簡単(かんたん)なことではなかった。

私だから、できたのだよ。

ああ、これ以(い)上(じょう)、私に何を望(のぞ)むというのだ。

放(ほう)っておいてくれ。

どうでも、いいのだ。

私は負(ま)けたのだ。

だらしがない。

笑(わら)ってくれ。

王(おう)は私に、ちょっと遅(おく)れて来い、と言った。

遅(おく)れたら、人(ひと)質(じち)を殺(ころ)して、私を助(たす)けてくれると約(やく)束(そく)した。

私は、なんとひどいことを言うのだと悔(くや)しがった。

けれども、今になってみると、私は王(おう)の言ったとおりになっている。

私は、遅(おく)れて行くだろう。

王(おう)は、やはり遅(おく)れて来たか、と私を笑(わら)い、そうして何事(なにごと)もなく私を許(ゆる)すだろう。

そうなったら、私は、死(し)ぬよりつらい。

私は、永(えい)遠(えん)に裏(うら)切(ぎ)り者(もの)だ。

この世(よ)で最(もっと)も恥(は)ずかしいことだ。

セリヌンティウスよ、私も死(し)ぬぞ。

君(きみ)と一緒(いっしょ)に死(し)なせてくれ。

君(きみ)だけは私を信(しん)じてくれるに違(ちが)いない。

いや、それも私の、わがままなのか? 

ああ、それなら、もう悪者(わるもの)として生きのびてやろうか。

村には私の家がある。

羊(ひつじ)もいる。

妹夫婦(ふうふ)は、まさか私を村から追(お)い出すようなことはしないだろう。

正義(せいぎ)だの、信実(しんじつ)だの、愛(あい)だの、考(かんが)えてみれば、くだらない。

人を殺(ころ)して自分が生きる。

それが人間(にんげん)世界(せかい)のあり方(かた)ではないのか。

ああ、何もかも、ばかばかしい。

そうさ、私は、裏(うら)切(ぎ)り者(もの)だ。

勝手(かって)にするがいい。

もうおしまいだ。

――メロスは手足を投(な)げ出し、うとうと眠(ねむ)ってしまった。

 

ふと耳に、さらさらと水の流(なが)れる音が聞こえた。そっと頭(あたま)を上げて、息(いき)を止め、耳をすました。すぐ足もとで、水が流(なが)れているらしい。よろよろ起(お)き上がって、見ると、岩(いわ)の間から、何かささやきながら、きれいな水が湧(わ)き出ているのである。メロスはその水を両(りょう)手(て)ですくって、一口飲んだ。ほうと長いため息(いき)が出て、夢(ゆめ)から覚(さ)めたような気がした。歩(ある)ける。行こう。体の疲(つか)れが取れると、わずかながら希(き)望(ぼう)が生まれた。最(さい)後(ご)までやりぬく希(き)望(ぼう)だ。わが身(み)を殺(ころ)して名(めい)誉(よ)を守(まも)る希(き)望(ぼう)だ。

夕(ゆう)日(ひ)は木々(きぎ)を照(て)らし、葉(は)も枝(えだ)も燃(も)えるように赤く輝(かがや)いている。日が沈(しず)むまでには、まだ時間がある。私を、待っている人がいるのだ。少しも疑(うたが)わず、静(しず)かに期(き)待(たい)してくれている人がいるのだ。私は、信(しん)じられている。私の命(いのち)など、問題ではない。死(し)んで謝(あやま)ればいい、などと勝手(かって)なことを言ってはいけない。私は、信頼(しんらい)に応(こた)えなければならないのだ。今はただ、それだけだ。走(はし)れ! メロス。



 

 私は信頼(しんらい)されている。私は信頼(しんらい)されている。

さっき諦(あきら)めようと思ったのは、あれは夢(ゆめ)だ。悪(わる)い夢(ゆめ)だ。

忘(わす)れてしまえ。

体が疲(つか)れているときは、ふとあんな悪(わる)い夢(ゆめ)を見るものだ。

メロス、おまえの恥(はじ)ではない。

やはり、おまえは真(しん)の勇者(ゆうしゃ)だ。

再(ふたた)び立って走(はし)れるようになったではないか。

ありがたい! 私は、正義(せいぎ)を胸(むね)に死(し)ぬことができるぞ。

ああ、日が沈(しず)む。ずんずん沈(しず)む。

待ってくれ、ゼウスよ。

私は生まれた時から正直(しょうじき)な男であった。

正直(しょうじき)な男のままで死(し)なせてください。

 

 道行く人を押(お)しのけて、メロスは黒い風(かぜ)のように走(はし)った。野原(のはら)で宴会(えんかい)をしている席(せき)の真(ま)ん中を駆(か)け抜(ぬ)け、酒(さけ)を飲んでいる人々を驚(おどろ)かせた。犬を蹴(け)とばし、小(お)川(がわ)を飛(と)び越(こ)え、少しずつ沈(しず)んでいく太(たい)陽(よう)の、十倍(ばい)も早く走(はし)った。旅人(たびびと)の集団(しゅうだん)とさっとすれちがった瞬間(しゅんかん)、嫌(いや)な会話が聞こえた。

「今頃(いまごろ)は、あの男も、十字架(じゅうじか)に磔(はりつけ)になっているよ」

ああ、その男、その男のために私は、今こんなに走(はし)っているのだ。

その男を死(し)なせてはならない。

急(いそ)げ、メロス。

遅(おく)れてはならない。

愛(あい)と信実(しんじつ)の力(ちから)を、今こそ知(し)らせてやるがよい。

格好(かっこう)なんかは、どうでもいい。

 

メロスは、今は、ほぼ裸(はだか)だった。呼(こ)吸(きゅう)もできず、二度、三度、口から血(ち)が出た。見える。まだ遠(とお)いが、シラクスの町の建物(たてもの)が小さく見える。それらは、夕陽(ゆうひ)を受(う)けて、きらきら光(ひか)っている。

「ああ、メロス様(さま)」

その声(こえ)は風(かぜ)とともに聞こえた。

「だれだ」メロスは走(はし)りながら尋(たず)ねた。

「フィロストラトスでございます。あなたのお友達(ともだち)セリヌンティウス様(さま)の弟子(でし)でございます」

その若(わか)い石工(せっこう)も、メロスの後(あと)について走(はし)りながら叫(さけ)んだ。

「もう、駄目(だめ)でございます。無駄(むだ)でございます。走(はし)るのは、やめてください。もう、あの方をお助(たす)けになることはできません」

「いや、まだ日は沈(しず)まぬ」

「ちょうど今、あの方が死(し)刑(けい)になるところです。ああ、あなたは遅(おそ)かった。ひどい人だ。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」

「まだ日は沈(しず)まぬ!」

メロスは胸(むね)が張(は)り裂(さ)ける思いで、赤く大きい夕(ゆう)日(ひ)を見つめていた。走(はし)るよりほかはない。

「やめてください。走(はし)るのは、やめてください。今はご自分の命(いのち)が大事(だいじ)です。あの方は、あなたを信(しん)じておりました。死刑場(しけいじょう)に引(ひ)き出されても、平(へい)気(き)でいました。王(おう)様(さま)が、何(なん)度(ど)あの方をからかっても、『メロスは来ます』とだけ答(こた)え、信(しん)じ続(つづ)けている様(よう)子(す)でした」

「それだから、走(はし)るのだ。信(しん)じられているから走(はし)るのだ。間(ま)に合(あ)うかどうかは問題でないのだ。人の命(いのち)も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐(おそ)ろしく大きいもののために走(はし)っているのだ。ついて来い! フィロストラトス」

「ああ、あなたは気が狂(くる)ったか。それでは、気が済(す)むまで走(はし)るがいい。ひょっとしたら、間(ま)に合(あ)うかもしれない。走(はし)るがいい」

 言うまでもない。まだ日は沈(しず)まぬ。最(さい)後(ご)の力(ちから)を尽(つ)くし、メロスは走(はし)った。メロスの頭(あたま)は、からっぽだ。何一つ考(かんが)えていない。ただ、何かわからぬ大きな力(ちから)に引(ひ)きずられて走(はし)った。

日は、ゆらゆら地平(ちへい)線(せん)に沈(しず)み、まさに最(さい)後(ご)の光(ひかり)も、消(き)えようとした瞬(しゅん)間(かん)、メロスは風(かぜ)のように死刑場(しけいじょう)に入って来た。間(ま)に合(あ)った。

「待て! その人を殺(ころ)すな! 帰って来た。約束(やくそく)通(どお)り、今、帰って来たぞ!」と、そこに集(あつ)まった人々に向(む)かってメロスは叫(さけ)んだ。だが、喉(のど)がつぶれて、老人(ろうじん)のような声(こえ)がかすかに出ただけで、だれもメロスの到着(とうちゃく)に気がつかない。

すでに磔(はりつけ)の柱(はしら)が高々(たかだか)と立てられ、縄(なわ)で縛(しば)られたセリヌンティウスは、徐々(じょじょ)に釣(つ)り上げられてゆく。メロスはそれを目にして、また駆(か)け出した。先(さき)ほど川を泳(およ)いだ時のように人ごみを掻(か)きわけ、掻(か)きわけ、

「私だ、刑(けい)吏(り)! 殺(ころ)されるのは、私だ。メロスだ。彼(かれ)を人質(ひとじち)にした私は、ここにいる!」と叫(さけ)びながら、ついに磔(はりつけ)台(だい)に上(のぼ)り、友の両足(りょうあし)にしがみついた。

人々から、「おおー!」という声(こえ)が上がり、続(つづ)いて「よくやった。許(ゆる)してやれ」と口々(くちぐち)に叫(さけ)んだ。

セリヌンティウスの縄(なわ)が、ほどかれた。

「セリヌンティウス」

メロスは目に涙(なみだ)を浮(う)かべて言った。

「私を殴(なぐ)れ。力(ちから)いっぱいに頬(ほお)を殴(なぐ)れ。私は、途中(とちゅう)で一度、悪(わる)い夢(ゆめ)を見た。君(きみ)がもし私を殴(なぐ)ってくれなかったら、私は君(きみ)と抱(だ)き合(あ)うことさえできないのだ。殴(なぐ)れ」

 セリヌンティウスは、すべてを理解(りかい)した様子(ようす)でうなずき、力いっぱいメロスの右(みぎ)頬(ほお)を殴(なぐ)った。殴(なぐ)ってから優(やさ)しく微笑(ほほえ)み、

「メロス、私を殴(なぐ)れ。同(おな)じくらい力(ちから)いっぱいに私の頬(ほお)を殴(なぐ)れ。私はこの三日間でたった一度だけ、ちらっと君(きみ)を疑(うたが)った。生まれてはじめて君(きみ)を疑(うたが)った。君(きみ)が私を殴(なぐ)ってくれなければ、私は君(きみ)と抱(だ)き合(あ)えない」

 メロスは腕(うで)に力(ちから)を込(こ)めてセリヌンティウスの頬(ほお)を殴(なぐ)った。

「ありがとう、友よ」

ふたり同時(どうじ)に言い、ひしと抱(だ)き合(あ)うと、うれし泣(な)きに声(こえ)をあげて泣(な)いた。集(あつ)まった人々の中からも、すすり泣(な)く声(こえ)が聞こえた。ディオニス王(おう)は、その後ろからふたりの様子(ようす)を、じっと見ていたが、やがて静(しず)かにふたりに近(ちか)づき、顔(かお)を赤(あか)らめて、こう言った。

「おまえたちの望(のぞ)みは叶(かな)ったぞ。おまえたちは、わしの心に勝(か)ったのだ。信(しん)実(じつ)というものは、本当にあったのだな。どうか、わしを仲(なか)間(ま)に入れてくれないか。どうか、わしの願(ねが)いを聞き入れて、おまえたちの仲(なか)間(ま)の一人にしてほしい」

 それを聞いて、人々は、「わぁー!」と歓声(かんせい)を上げた。

「万歳(ばんざい)、王(おう)様(さま)万歳(ばんざい)」

 ひとりの少(しょう)女(じょ)が、緋(ひ)色(いろ)のマントをメロスに差(さ)し出した。メロスは、うろたえた。そこで、セリヌンティウスは親切(しんせつ)に教(おし)えてやった。

「メロス、君(きみ)は、裸(はだか)じゃないか。早くそのマントを着(き)ろ。このかわいい娘(むすめ)さんは、君(きみ)の裸(はだか)をみんなに見られるのが悔(くや)しくてたまらないのだ」

 勇者(ゆうしゃ)の顔(かお)は、真(ま)っ赤(か)になった。

 

1 comment:

  1. 素晴らしい話でした。読者のためが簡単に書きました。

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